2022年7月 4日

COFFEE & NOTEBOOKS

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何度か見ているのに、アマゾンプライムに表示される、あなたにおすすめ映画のリストに誘われて映画「コーヒー&シガレッツ」をまた見てしまった。
 
タイトルの通り、タバコを吸い、コーヒーを飲みながら、とりとめない話をする姿を描いた短編が10編ほどのオムニバス形式になっている映画なのだけど、それぞれの短編に繋がりもないし、特別なオチもない。深い感動を誘うような名作映画ではないけれど、ふとしたきっかけでなんとなくその映画のシーンを思い出し、ついニンマリしてしまう、そんな映画だ。
 
例えば、「カルフォルニアのどこかで」は、寂れたダイナーで、イギー・ポップが所在なさげにコーヒーを飲みながら誰かを待っているシーンから始まる。少し遅れて、トム・ウェイツがやってくると、いっさい悪びれることなく、遅れた理由を意味不明な言い訳とともに伝えてくる。イギーは面倒そうにその言葉をやり過ごしながら、「コーヒーでもどうだ」とカップに注ぐ。
 
するとトムが、前の客が忘れたというタバコがテーブルにあることに気づく。「タバコを吸うのか?」と聞くイギーに、「俺はもうずっと禁煙している」とトムは答える。同じように禁煙しているイギーは、安心したようにタバコを辞めていかに体の調子が良くなったかと話す。「いまだに吸っている奴が哀れでしかないよ」とイギーが言うと、トムはさらりと「タバコをやめてよかったよ。だから堂々と吸える」とやっぱり意味不明の理由を言いながら、タバコを手に取る。
 
「肺まで吸い込まない。だからおまえも一本どうだ」とトムが促すと、イギーは最初は怪訝そうな顔をしながらも、結局タバコを咥えて、二人で本当にうまそうに吸う。その後も、なんとか言葉を繋ごうと話を切り出すイギーに対して、トムは変なところにひっかかりくってかかるので、話は噛み合わない。だけど、そんな二人の姿はどこか平和でのんびりした空気に満ちている。
 
イギー・ポップといえば、ザ・ストゥージズとして1960年代のデビュー以来、今も現役で活躍するミュージシャンで、その過激なサウンドとステージパフォーマンスで「ゴッドファーザー・オブ・パンク」と呼ばれている。年を重ねても常にライダーズジャケットを羽織り、長髪で強面のまさに根っからのロックミュージシャンという風貌なんだけど、そんなイメージを覆すようにトムに話を合わせようと気を遣っていたり、噛み合わない話にたじたじになっている。
 
一方のトム・ウェイツは、浮世離れした孤高のロックンローラーというイメージ通りなんだけど、一人になると、前の客が忘れたタバコを誰かに見つからないようにキョロキョロと目を泳がせながら吸ってみたり、店内のジュークボックスに自分の曲がないかわざわざ確認してみたりする。
 
この映画でコーヒーとタバコとともに二人が見せてくれるのは、表舞台でのピリピリした緊張感を伴った表現者としての姿とは違った、平和で穏やかな人間らしい姿だ。「コーヒーとタバコは最高の組み合わせだな」と言いながら二人でタバコの煙を吐き出すときの表情は、最高に幸せな表情をしている。
 
映画を見ながら、そういえば、この映画のようにカフェやダイナーでコーヒーを飲みながらタバコを吸うという行為自体が、今ではほとんど味わうことができない貴重な体験であることにも気がついた。
 
あえてここでタバコの功罪を語る気もないし、コーヒーとタバコの組み合わせの素晴らしさについても、これ以上書こうとは思わない。コーヒーとタバコを一緒に嗜むことが、今では難しいのであれば、その代わりになるものとして、僕らはやっぱりコーヒーとノートを提唱したい。コーヒー&ノートブックスだ。
 
日々の暮らしの中で、コーヒーを飲みながらトラベラーズノートに向かい合うことで、心穏やかな平和なひとときを味わうことができるし、だれかと一緒であれば、話もさらに弾む。コーヒーは心を落ち着かせ、トラベラーズノートはお互いを理解することを促してくれる。ちょっと大袈裟に言えば、今世界では戦争が起こっていたり、分断が広がっていたりするけど、そんなときこそ、コーヒーとノートをゆっくり味わい、穏やかで平和な時間を過ごすことが大事だと思う。
 
いや、別にティー&ノートブックスでも、ビール&ノートブックスでもいいのかもしれないし、個人的にはそこにさらにシガレッツも加わると最高なんだけど、とりあえずトラベラーズとしては、コーヒー&ノートブックスを提唱したいと思う。
 
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