トラベラーズファクトリー11周年
11年前、トラベラーズファクトリーをオープンするとき、トラベラーズノートは別として、他にこれだけは外せないと思っていたのは、コーヒーと音楽だった。
そこを単に買い物をするだけの場所にしたくはなかった。心地よい音楽を流れる中でコーヒーを飲みながらノートを開いてゆっくり何かを書いたり、ただぼーっとひとり考え事をしたりできるような、忙しい日々の中でほっと心が安らぐような時間を与えて場所でもありたいと思った。そんな場所であれば、そこで出会った旅人たちの間であたらしいコミュニケーションが生まれるかもしれないとも思った。
コーヒーと音楽は、なくても生きていけるけれど、日々の生活に潤いを与えるし、気持ちを落ち着けて穏やかにしてくれたり、疲れているときには元気にしてくれたりする。ときには心を奮い立たせ勇気を与えてくれる。トラベラーズノートもまたそんな存在でありたいと思っていたし、トラベラーズファクトリーはそれを体感できるような場所でありたいと思った。
そこで、中目黒のレイアウトを考えたとき、思い切って2階は、商品を一切置かず、お客さんがゆっくりできるフリースペースにすることを決めた。もちろん、そこにはコーヒーと音楽が必要だった。
その頃、すでに僕らには、アアルトコーヒーの庄野さんがトラベラーズノートをイメージして焙煎してくれたトラベラーズブレンドがあったから、それをみんなに飲んでもらいとの思いもあった。いつも家や旅先のカフェでするように、コーヒーを飲みながら、ノートを向き合うことができたらいいなと思った。
そこで庄野さんに相談しながら、必要な道具を揃え、淹れ方を教えてもらい、コーヒーを提供できるように準備を整えた。音楽は、今まで聴いてきた音楽ライブラリーをあらためて掘り返して、その空間をイメージしながらBGMのプレイリストを作成した。それは、かつて振り向いてほしい女の子のために、徹夜でミックステープを作ったときみたいで、ずいぶん時間がかったけれど、楽しい時間だった。
「HAVE A GOOD DAY, GOOD MUSIC, GOOD COFFEE, AND A GOOD NOTEBOOK」
トラベラーズファクトリーを象徴するメッセージとしてこんな言葉を考えると、橋本がポストカードやTシャツにあわせてデザインして、いくつかのオリジナルプロダクトを作った。
リノベーションが終わった中目黒の2階は、1階とは違って、昼間には磨りガラスの窓から優しく明るい日差しが差し込み、心が思わず晴れやかになるような、素敵な空間になった。ここで心地よい音楽が流れるなかで、おいしいコーヒーを飲みながら、ノートに向き合うなんて素敵じゃないか。今までずっと長い間、頭の中で妄想していた空間だったから、現実の世界で目の前に現れたとき、はじめて見たのに懐かしさを感じた。僕らは音楽が流れる中でコーヒーを飲みながら、これからたくさんの人がここに訪れてくれることを想像して胸の高鳴ってきた。
トラベラーズファクトリーが11周年を迎える。
毎年この時期には周年ごとにテーマを決めて、記念缶とコットンバッグを作っているのだけど、11周年のテーマは、トラベラーズカフェになった。今までは周年の数字にちなんだデザインにしていたけれど、10を過ぎて、今後は数字にちなんだテーマを考えるのも大変そうだし、そのためにむりやり数字にこじつけ作るのもどうだろうと思っていたから、今年は11という数字に因むのをやめてトラベラーズノート2023ダイアリーのテーマのトラベラーズカフェになった。でも同時に10周年が終わって、また新たな10年を迎えようとするトラベラーズファクトリーには、ぴったりのテーマだと思った。お店でありながら、カフェのような場所でもありたいとオープンしたこの場所の原点を思い出させてくれるようなテーマになったと思っている。
先週末は11周年記念イベントとして、3年ぶりに土曜日にアアルトコーヒーの庄野さんによるカフェイベントを、日曜日には山田稔明さんによる有観客ライブを開催。しかも、今回はレコードコレクターでもある山田さんによるTRAVELER'S RECORDS SHOPも登場し、まさにコーヒーと音楽の2日間になった。
久しぶりに庄野さんと山田さんがトラベラーズファクトリーに揃って、コーヒーと音楽、そしてノートを楽しむためにたくさんの方が中目黒にきてくれて、そうそう、この感じなんだよな、と嬉しくなった。
好きな人たちが作る好きなものを集めて、一緒に楽しいことをする。そして、それを好きだと思ってくれる人たちと共有する。そんなトラベラーズファクトリーが作ったときの思いが理想的に体感できた2日間だった。
11周年を迎えたトラベラーズファクトリーをこれからもよろしくお願いします。