2023年2月 6日

チェンマイから東京へ

 チェンマイからバンコク経由の羽田行き飛行機は、特にトラブルがあったわけではないのだれど、到着が40分程度遅れた。さらにバゲージクレームにスーツケースが流れてきたのもほぼ最後。

 もともと到着予定が夜遅かった上に遅れもあって、最終電車で辿り着けるのは、蒲田までという時間になってしまった。そこで急遽、蒲田駅近くのカプセルホテルに泊まることにした。

 カプセルホテルと言っても、カプセルのベッドに隣接してデスクとロッカーが付いたプライベートスペースがあるキャビンタイプという部屋があったのでそこに泊まった。部屋というには、入り口はアコーディオンカーテンで仕切られ、スーツケースを置いただけでいっぱいになってしまうような狭さだったけど、それでもカプセルだけよりは断然快適だし、さらに大浴場にサウナも付いている。香港の重慶大厦の中にあるゲストハウスの安宿を思わせる狭い部屋に入ると、荷物を置き、館内服に着替えて早速お風呂へ行った。
 
 サウナに何回か入っているうちに、旅の疲れもだんだんと癒されていく。チェンマイでは広々した快適な部屋に泊まることができたのだけど、狭い部屋に馴染みのあるサウナと大浴場が東京を感じさせ、なんだかチェンマイから東京へグラデーションを描きながら、旅が続いているような気がした。

 深夜1時を過ぎた人も少ない大浴場のお風呂に浸かっていると、チェンマイ最後の日を思い出した。工房のオーナー夫妻と共に、旅の打ち上げのようにタイのビールを飲みながら、テーブルいっぱいに並ぶタイ料理を食べた。そういえば旅の間はずっとタイ料理だったけれど、ぜんぜん飽きることもなかったし、チェンマイの旅と最後のタイ料理を惜しむようなにみんなで楽しく話をしながら、ゆっくり味わって食べた。夕食が終わると、これも最後のタイマッサージをしてから、ナイトバザールを歩いて宿に戻った。つい昨日のことなのに、どこか現実感を伴わない夢の中のことのようで不思議な気分になった。
 
 思いがけず泊まることになったサウナ付きのカプセルホテルでの夜が、旅の途中と終わりの中間地点にも思えて、こんな感じで音楽がゆるやかにフェードアウトするように旅が終わっていくのも悪くないなと思った。

 翌日は抜けられない会議があったので、蒲田駅で眠気を覚ますためにコーヒーを飲むと、迷惑だけどスーツケースを持って、朝のそれなりに混んでいた山手線に乗って会社に行った。

 そういえばチェンマイでは、以前にも増してコーヒーを飲める場所が増えていて、それもスターバックスのようなグローバルチェーンよりローカルの小さなコーヒー屋さんが増えていた。

 工房はチェンマイ郊外の何もないような場所にあるのだけど、そこにも自宅の庭の一角に造られた小さなコーヒー屋さんがある。普通のコーヒーもあるのだけれど、コーヒーにオレンジジュースやライムソーダを混ぜたスペシャルコーヒーが、定番メニューのように並んでいるのが面白い。
 
 小さな庭の気持ちのよい木陰のベンチに座って、飲むコーヒーはおいしかったけど、ひとくちだけ飲んだオレンジジュース入りのコーヒーは、個人的にはそれ以上飲まなくていいかなと思った(だけど、もっとチェンマイ滞在して毎日のようにこれを飲むときっとクセになるんだろうな)。

 旅の続きのように、スーツケースを持って会社に行くと、長く留守にしていたこともあって、バタバタとそれなりに刺激のある日常が始まった。そして日曜日は、アアルトコーヒーの庄野さんによるカフェイベントで中目黒へ。
 
 この日はいつものトラベラーズブレンドに加えてバレンタインデーが近いということでバレンタインブレンドを淹れてくれた。苦くてほんのり甘い深煎りのコーヒーを飲むと、やっぱりトラベラーズファクトリーの2階で庄野さんが淹れてくれるコーヒーが一番おいしいとあらためて思った。さらに今回は、トラベラーズノートのオープン時にダンラナチュールのなっちゃんが作ってくれたトラベラーズビスケットが復活。久しぶりにトラベラーズブレンドを飲みながらトラベラーズビスケットをいただくことができるスペシャルなイベントになった。

 イベントが終わると、恒例の打ち上げ。この日は、庄野さんの本を出版するミルブックスの藤原さんがだしから仕込んだ、お手製の鍋を用意してくれた。これが、最初におでんから始まり、おでんが終わると、牡蠣、タラ、アンコウに白菜を入れて海鮮鍋になり、さらに鶏団子とニラの鍋に変化して、最後はシャケとご飯を入れて雑炊になるというフルコース鍋で、味もすこぶるおいしい。
 
 みんな、鍋奉行のように仕切る藤原さんの指示に素直に従いながら、おいしくいただいた。すっかり満腹になると、最後に手際良く鍋で葛餅を炊き、そこにアイスクリームを添えたデザートまで作ってくれた。おいしい料理とお酒があれば、打ち上げは盛り上がります。最後に中目黒スタッフの内田さんがギターの弾き語りまで披露してくれて打ち上げに華を添えてくれた。

 チェンマイのタイ料理を囲んでの打ち上げから一週間も間をあけずにトラベラーズファクトリーで鍋を囲んでの打ち上げ。どちらも食べ過ぎたけど、至福を時間だった。