チェンマイより
拝啓、お元気ですか。
タイのチェンマイでこの手紙を書いています。
この季節のチェンマイは、1年で最も気温が低い冬にあたる季節ではあるのですが、Tシャツ一枚で過ごせて、暑くもなく寒くもない、一年で一番過ごしやすく気持ちのいい季節です。そういえば出発した日は、ちょうど東京が大寒波に襲われたタイミングでしたが、ここはそんな寒さから逃れてやってくるにはうってつけの場所なのかもしれません。
チェンマイには、20年ほど前からほぼ毎年のように訪れていましたが、今回は4年ぶりの訪問です。久しぶりに会うトラベラーズノートの工房のオーナー夫妻は、まるで家族のように温かく僕らをもてなしてくれています。
彼らと出会ったらことがきっかけでトラベラーズノートが生まれたとも言えるので、20年前の彼らとの出会いは僕の人生を大きく変えることになったし、そうやってはじまった縁で、この穏やかな空気が流れるチェンマイという場所に仕事仲間であり、友人であり、家族のような存在ができたことは、僕の人生にとって大きな財産だと思っています。
チェンマイでは、毎日この工房を訪れて、トラベラーズノートの革のことを打ち合わせたり、サンプルの試作と修正を繰り返しながら、新しい商品の企画を進めたりしています。
職人たちの技によってその場でサンプルが作られ、それを一緒に確認して、話をしながらお互いにアイデアを加え、サンプルを修正していきます。そうやって新しいプロダクトの原型のようなものが生まれるのは、ものづくりが好きな僕らにとって楽しい時間です。さらにここにいると、自然とチェンマイの穏やかな空気感がスパイスのようにプロダクトに加えられ、それもまたトラベラーズらしさに繋がっているような気がします。
工房での打ち合わせの合間を縫って、チェンマイのレストランで食事をしたり、マーケットや蚤の市、メイド・イン・タイランドが中心のローカルなステーショナリーショップなどを巡るのも楽しみのひとつです。
今回は、この場所に来ると必ず訪れるカオソーイのレストランの他に、彼らがこれがオリジナルだと言うカオマンガイとガパオの専門店にそれぞれ連れて行ってもらいました。
カオマンガイは鶏のスープで炊いたご飯と一緒に蒸し鶏を一緒に食べる料理で、ガパオは鶏肉などの挽肉とバジルを炒めたもので、どちらも日本でもよく知られているタイ料理の定番ですが、連れて行ってもらった専門店は、どちらも今まで食べたことがあるカオマンガイとガパオをはるかに超える感動を与えてくれました。
現地だから新鮮な素材が安価で手に入れられたり、専門店だからこそ手間を惜しまずできる調理方法だったり、もしかしたらそれは全体の中ではちょっとした違いなのかもしれないけれど、そんなささいなことが実は大切なんだと、僕らに教えてくれます。さらに、料理人が慣れた手つきでテキパキと仕事をこなす厨房や、地元の人で賑わうの店内の雰囲気もまたその感動を増幅されてくれるようです。
屋台でちょこちょこ買っての食べ歩きから、地元の人で賑わう老舗のローカル食堂に、清潔でモダンなレストランまで、ここにはおいしいものがたくさんあるので、つい食べすぎてしまいます。
人が穏やかで優しいのもチェンマイの魅力のひとつです。市街地では車にバイク、トゥクトゥクなどが入り混じって走っていますが、クラクションを鳴らす人がほとんどいません。人に何かを頼んでも、優しい気遣いを感じることも多く、話し方も穏やかですし、タイ語のどこかのんびりしたトーンの効果もあってか、ストレスなく心地よいコミュニケーションができるのも嬉しいです。その分、頼み事をうっかり忘れらたり、何かが遅れたりすることも多いのですが、チェンマイにいると、「まあ、いいかな」と思えてしまうのです。
そんなわけで気候が良くて、食べ物がおいしく、人も良いチェンマイですから、居心地が良いに決まっています。工房のオーナー夫妻と食事をしながら、「日本に帰りたくないなあ」と僕が言うと、彼らは「じゃあ残って、チェンマイで仕事をすれば? 工房の隣に寝泊まりできるスペースもあるよ」と冗談で返してくれたのですが、そんな生活を想像すると、あながちそれも悪くないな、と思えます。
いつか1年の半分くらいはチェンマイで、残り半分は日本で暮らすなんて生活ができたら、最高だな、なんて想像をしてしまいました。トラベラーズノートだって、チェンマイと日本のハーモニーで生まれたんだし、それもまたトラベラーズらしい生活なのかもしれないですね。
Tシャツで過ごせるチェンマイで今の東京の寒さを思うと憂鬱になりますが、もうすぐ東京に戻ります。それでは近いうちに東京で会いましょう。