ゴールデンウィーク2024
お元気ですか。今、静岡の宿でコーヒーを飲んでいます。ここは喫茶店を併設しているちょっと変わった宿で、海外のゲストハウスを思わせます。古い喫茶店を譲り受けた若い人たちが、喫茶店兼ゲストハウスにリノベーションをして運営しているようで、古い建物なのに清潔感があり、快適な時間を過ごすことができました。ホテルの予約サイトで、値段が安い順のトップに出てきて、しかも予約したのは2日前だったので、正直に言えば、期待はしていなかったのですが当たりでした。そんなわけで、僕は今、静岡を旅しています。
ゴールデンウィークの後半、2回目の連休は、自転車でどこかへ出かけようと思って、横浜のカプセルホテルを連休の前日に予約しました。連休の前日に自転車で会社に行き、仕事が終わったら、そのまま自転車で横浜まで行くことにしたのです。会社がある恵比寿から横浜まで約20キロ。家路と逆方向に自転車を進めるだけで、旅の高揚感がふつふつと湧いてきます。途中、街道沿いの中華屋でタンメンと餃子を食べて、ホテルの着いたのは夜の10時ごろ。共同のお風呂に浸かりカプセルに入ると、スマホを眺めながら、さて、これからどこに行こうかと考えました。
そういえば、行きたいサウナ施設があったのを思い出し、行き先を静岡に決めました。輪行バッグを持ってきたので、途中に電車に乗れば問題なく行けます。そのサウナ施設は24時間営業なので、泊まることもできます。さらに、スマホでその次の日の宿を検索し、今いるゲストハウスを予約しました。向こう2日間の予定がざっくり決まると、カプセルの電気を消して眠りにつきました。
でも、本当のことを言えば、行き先はどこでもよかったのです。ただ、せっかくの連休なので、普段自転車でふらっと行くにはちょっと遠いくらいの場所がいいかなと思ったのです。
翌日の朝、横浜を出発したのは11時ごろ。人でいっぱいの横浜駅を、自転車を入れた輪行バッグと共に歩くのは憚れるので、戸塚まで自転車を走らせてから東海道線に乗り、各駅停車を乗り継いで、静岡の手前の清水駅で降りました。清水駅からサウナ施設までは、1時間ほど。天気も快晴で気持ち良い走りを楽しめました。
サウナ施設は、噂通りのすばらしい場所で、夕方と朝にも2時間ずつ、サウナを楽しみました。18時ごろから朝の10時まで、ずっと同じ場所にいたので、サウナの休憩中や寝る前に、たっぷり本を読むこともできました。
朝、サウナを出るとファミレスで朝食。さて、これからどこへ行こうかとスマホで検索してみると、静岡県立美術館でテオ・ヤンセン展が開催されているのを見つけ、まずはそこに行くことにしました。プラスチックチューブで組んだ巨大な芋虫のような模型は、ストランドビーストと呼ばれ、進化の歴史が恐竜図鑑にある年表のように描かれています。それぞれに固有の名前も付けられ、その複雑な動きを生む機構だけでなく、背景もまるでほんとうの生き物のように作り込まれています。ストランドビーストを実際に動かしてくれる展示もあって、巨大な虫のような動きを間近で見られたのも貴重な体験でした。
その後、静岡市内の古本屋を何軒か巡りました。そのうちの1軒では、読みたかった本が手頃な価格で売っているのを発見し、思わずすべての棚を1冊ずつ探索してしまいました。すると、60代半ばくらいと思われる店主と常連らしきお客さんの話す声が聞こえてきました(店内には店主と常連、私の、3人しかいません)。
「なんだかさ、昔のフォーク歌手がユーチューブで、昭和ネタみたいな替え歌を歌ってて、若い人に人気なんだって。ちょっと見たけど、ありゃもう魂を売っちゃってるよね」と店主。「まあ、いいじゃない。みんな食っていくのに必死なんだろうし」と常連。なるほど、店内には竹中労に吉本隆明など、反骨・サブカル系の本が充実しています。
「この前さ、XXちゃんの店に行ったらさ、本だけじゃなくて、レコードにギターもたくさん置いてあってさ。ああ、負けたって思ったよ」と店主。「へー、売れんのかね。でも、ここだってがんばってるじゃない」と常連。なんとなくこの店と店主に好感をもち、自転車の旅だというのに4冊も本を購入しました。
喫茶店でコーヒーを飲みながら本をパラパラとめくったりして、この宿にチェックイン。荷物を置くと、近くにサウナ付き銭湯があるのを聞き、そこで夜まで過ごしました。東京での普段の休日とやっていることはたいして変わらないような気もするけれど、ここが旅先だ思うだけで気分が変わります。なんだか自分が知らない街を彷徨い歩く、風来坊になったような気になれるのです。
実は静岡は、20年以上前に、3年ほど月に1度は営業の仕事で通っていました。だけど、あの頃の面影は、ほとんど見つけることができませんでした。夜には、静岡おでんをつまみにビールを飲んだのですが、そういうえば、静岡おでんなるものを食べたのも初めてでした。今思えば、あの頃は、この街を旅人の目線で見ることができていなかったのかもしれません。
さて、明日は東京に戻ります。朝、ここでモーニングを食べたら、自転車で東京に向かって走ることにします。もちろん、そのまま自転車で東京に帰るには、距離がありすぎるし、箱根の山を越える元気もありません。疲れたら途中で東海道線に乗ります。海と富士山を見てみたいので、由井か富士川くらいまでは走ろうと思います。
あ、でも休みはもう1日あるし、東京のカプセルホテルにもう一泊してから家に帰ろうかな。今回の旅の相棒は、TOKYO EDITIONだし。