2024年4月30日

Baby A Go Go

 先週発売したTOKYO EDITIONですが、おかげさまでご好評いただいています。オンラインショップを含むトラベラーズファクトリー各店では、品切れとなっている商品もありますが、現在追加生産をしています。また今回の商品は、トラベラーズファクトリー以外のトラベラーズノート扱い店舗でも販売しています。現在も販売しているお店もあると思いますので、ご希望の方はぜひそちらも当たってみてください。

 話は変わるけど、今週5月2日は忌野清志郎の命日。亡くなったのは2009年なので、早いものであれからもう15年になるんだね。15年前にはこのブログも始まっていたので、アーカイブを見返してみると、そのことにも触れていた(あの頃はマメで、平均すると2日に1回はブログをアップしていた)。

 そのブログのタイトルは、「I Like You」。RCサクセション最後のアルバム『Baby A Go Go』に収録されている曲のタイトルを引用していた。『Baby A Go Go』は、僕が大学生の頃にリリースされたアルバムで、RCサクセションの中で一番よく聴くアルバムでもある。

 このアルバムの前作『Covers』は、原発反対をテーマにした歌詞が問題になって発売中止(その後レーベルを代えてリリース)。さらに忌野清志郎は、覆面バンド、タイマーズを組んで、過激な反体制的なメッセージを歌っていた。なんせ、いつもライブの1曲目で歌う「タイマーズのテーマ」(「モンキーズのテーマ」のカバー)は、「Hey Hey We’re THE TIMERS タイマ-が大好き かわいい君と トリップしたいな」なんて歌詞だし、テレビ出演時に、自分たちの曲を放送禁止にしたFM局を名指しで批判する曲をゲリラ的に演奏して話題になるし、この頃の清志郎は、パンクモード全開でワクワクしながらその様子を見ていた。

 そんな中でリリースされた『Baby A Go Go』は、一転して政治的なメッセージは影を潜め、冒頭から純粋なラブソングが続くアルバムだった。サウンドも原点回帰したようなシンプルでアナログな質感が心地よく、その後何度も聴くアルバムになった。

『Baby A Go Go』のリリースから10年近く経った頃のこと。自分にとって初めての子どもが産まれたとの知らせを聞き、僕は出産のために妻が滞在していた仙台へ行った。仙台で産まれたばかりの赤ちゃんと数日過ごし、未練をたっぷり残しながら一人東京へ帰った。そして、東京へ向かう新幹線で、なんとなく『Baby A Go Go』をカセットプレイヤーに入れて聴いた。

 アルバムの冒頭の「I Like You」が流れてくると、自然と涙が溢れてきた。さらに「ヒロイン」「あふれる熱い涙」と続くと、新幹線の席にいるのに涙が水滴となって流れて止まらない。それまでは大人の恋愛について歌っていると思っていた3曲のラブソングが、実は子どもへ愛に歌っていることに突然気づいたのだ。

「I Like You」の相手へのあまりにも無垢な視線は、その対象が赤ちゃんだと思えば素直に納得できる。「ヒロイン」で歌われる「僕のこと 忘れないでおくれ お願い もうすぐ飛行機で帰るから」という歌詞は、子どもと離れて東京に戻る自分には、ツアーやレコーディングなんかで子どもと離れていた清志郎が、やっと会えるときに気持ちを歌っているのを簡単に想像できた。

「あふれる熱い涙」は、それまでは叶わない恋を歌った失恋ソングだと思っていたのに、一方的で無条件に愛せる子どもへの愛の歌だと思うとしっくりくる。よく分からなかった「お願いだから俺を眠らせて あふれる熱い涙」というフレーズは、夜中に泣き止まない赤ちゃんに向けた歌詞だと思うと、しっくりくる。

 子どもへの愛は、男女間の恋愛とは違って、いっさい見返りを求めないもの純粋なもの。だからこそ、『Baby A Go Go』のラブソングは心に深く馴染んで感動を与えてくれるのだと気づいた。

 僕の知る限り、これらの曲が子どもへの愛を歌ったと清志郎が公言しているのを聞いたことはないし、他の人がそう言うのも見聞きしたことがない。そう感じるのは僕の個人的な受け取り方で、それが正しい解釈かどうかはわからない。そもそも歌詞の解釈に正しいとか間違っているがあるとも思わない。

 でも、そう思ってあらためて『Baby A Go Go』というアルバムタイトルを見てみると、ロックの歌詞によく出てくるBabyという言葉は、本来の赤ちゃんという意味で使っていて、アルバムタイトルも「赤ちゃんに首ったけ」みたいな意味だと解釈できる。

 昔流行ったツェッペリンとかディープ・パープルなんかの洋楽ハードロックを直訳日本語で歌っていた王様みたいに、「My Baby, I Like You」を「僕の赤ちゃん、君のことが好きだよ」と歌えば最初から気づいていたのかもしれない。でも、自分の生活や立場が変わることで、それまで気づかなかった歌詩の別の意味がすーっと心に入ってくるのも、感動的な体験だった。

 そんなわけで、『Baby A Go Go』はもうすぐ子どもが産まれたり、産まれて間もない人にもぜひ聴いてもらいたいアルバムです。もちろんそうじゃなくてもぜひ!

 発売したばかりのTOKYO EDITIONも、住む場所や国籍、東京へ行ったことがあるなし、さらにトラベラーズノート自体への向き合い方で、受け止め方は違うと思う。そうやって、違うのがおもしろいところでもある。

 例えば、ロゴにある白黒の丸は、たぶん東京に住んでいれば、山手線であることにすぐ気づくと思うけれど、海外に住んでいる人が東京を旅して初めて気づくことだってあると思う。さらに東京でどんな体験をしたかで、TOKYO EDITIONへの向き合い方も変わるかもしれないし。そんなことを想像してみるのもおもしろい。

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