2024年7月22日

トラベラーズタイムズ制作中

 この前の三連休のこと。毎年、この時期の定例行事になっているトラベラーズタイムズの原稿を書くために、サウナ付きカプセルホテルに泊まった。別に泊まる必要なんてないのだけど、気分が大事。家から1時間ほど自転車で走り、ホテルに着いた。チェックインすると、まずはサウナに入って汗を流してから(ここに来るまでたっぷり汗を流しているんだけど)、ホテルの近くにあるカフェでパソコンに向かう。カフェで書くのなら泊まらなくてもいいじゃん、と思うかもしれないけど、やっぱり気分が大事。

 たった2000字に満たない原稿を書くのに、うんうん唸りながら考える。これまで書いたブログをちょこちょこ読み返したり、ノートに書いておいた断片的なフレーズを見返したりしながら、まずは見切り発車で強引に書きはじめる。

 なんとか数行書くと、言葉の意味を調べるためネットに繋いでみる。すると、つい関係ないサイトを興味の赴くままに開いて読み入ってしまう。このあたりは、学生時代にテスト前の勉強をしていると、つい本や漫画を手にとって読んでしまうのと一緒だ。その手の誘惑に弱い僕は、暇なときよりもテスト前の方になると読書量が増えた。

 カフェのテーブルを三時間占拠してなんとか半分ほど書き終わる。後半にもうひと展開ほしいと思ったけど、一度気分を変えることにしてホテルに戻る。お風呂に入ると、また外に出て中華屋で夕食。その後、人の少ない夜のカフェでまたPCを開いて、原稿と格闘する。

 翌日、ホテルをチェックアウトすると、ファミレスのモーニングでお腹を満たしながら、また原稿。なんとなく後半の最後で前半とのつながりができて、文章としてまとまったような気がした。あとは一晩寝かしてから、少し長めの今の文章を削ぎ落として磨いていけば、なんとかなりそうなところまで仕上げることができた。

 時間はちょうどお昼を過ぎたころ。映画でも観ようと思って、帰路の途中にある映画館のサイトを開いた。上映作品をチェックしたけど、そそられる作品がない。ただ、その中のアニメーション映画『ルックバック』を、数日前に聞いたラジオで僕と同じ歳のMCが熱烈に勧めていたのを思い出した。普段観る類いの映画ではなかったけれど、なんとなく観ることにした。

 映画は、月が映る夜空を映すと、今度は空から視点となって夜の街並みを俯瞰で写し、無数の街明かりの中から一軒の家に向かってダイナミックに下りていく。そして、カメラは灯りのともる部屋の窓に入る。そこでは少女がひとり机に向かって必死に何かを描いている。彼女は頭を抱えてうんうん唸ったり、貧乏ゆすりをしながら、捻り出すように漫画を描いている。ついさっきまで、自分も頭を抱えて原稿を書いていたこともあって、冒頭のシーンで、性別も年齢もまったく違うこの主人公に軽く感情移入をしてしまう。

 続いて画面は、小学校で学級新聞が配られるシーンに変わる。主人公はそこに四コマ漫画を連載していることが分かる。クラスメイトが漫画を褒めると、主人公は「5分くらいで描いたんだけど、そのわりにはまあまあ描けたかな」なんて答える。だけど、映画の観客はその前のシーンで、彼女が必死に苦労しながら描いているを知っているから、それが嘘であることが分かる。

 継続的に何かを産み出すことを仕事をしている人であれば、少しは心当たりがあるシーンだと思う。さらっと素敵な文章を書けたり、美しいデザインができたりする人に憧れる。そういうことができる人がいるのも知っている。だけど、自分はそんな風にできないから、たっぷり悩んで何度もやり直して、なんとかギリギリのところで作り上げている。それでも他の人が作った作品に圧倒されて、挫折することもある。主人公の「5分で描いた」という強がりは、なんとか自分を保ち、表現を続けていくための、ささやかな嘘なのだ。

 その後も映画は、表現や創作に向かって真摯に努力する姿と共に、それに伴う挫折や苦悩を描く。その努力に意味があるのか、なんのためにやっているのか、誰にも分かってもらえない孤独感。そんな中で、すべてが報われるような、素晴らしい瞬間がやってくる。その瞬間、僕は涙腺が一気に崩壊した。

 映画を観終わると、すぐに原稿を書きたくなって、またカフェに入った。そして、映画の冒頭のシーンを思い出しながら、文章の締めの部分を少し書き換えた。このブログもそうだけど、休みの日まで頭を抱えながら原稿を書いて、それが誰かに求められているのか、そもそも意味があるのだろうかと考えてしまうこともある。なんだったら、外部のデザイン会社やライターに委託することだってできる。

 だけど、それはやっぱりいやなんだよな。自ら書いたり描いたり、何かを表現することを大切にしているトラベラーズノートなのに、作り手がその表現から手を引いてしまったら、なんのために作っているの分からなくなる。表現の拙さに心が折れたり、もがき苦しむこともあるけれど、それでもそこに向かわざるを得ないのだ。そんなことを思いながら、今回は『ルックバック』の影響で、四コママンガを描いてみたけど、あまりの出来の酷さに愕然とした…。自戒をこめて、あえてこのまま掲載します。

 そんなわけで、今年もトラベラーズタイムズは鋭意制作中です。今年はいろいろあって、いつもより大変なかでの制作になるのだけど、なんとかおもしろいものにできるよう、がんばっています。楽しみにしていただければ嬉しいです。