LOVE AND TRIP 2025
もう何度もこのブログに書いているけれど、20年前のトラベラーズノートを作るとき、最初に決めたのは、自分たちをターゲットにするということだった。すると自然と「自分がほんとうに好きなことってなんだろう、どうして好きになったんだろう」と考えるようになった。そして、自分が影響を受けて感動した音楽や映画、本、さらに過去の体験をあらためて掘り返していった。そこからトラベラーズノートのキーワードやスタイル、アティチュードみたいなものが作られていった。だから自然とトラベラーズノートは、自分たちの「愛」の集大成みたいなものになった。
愛を指針とすることで、メッセージは一貫性を持ち、そのメッセージに誠実にならざるを得なくなる(だって自分が本当に好きなものは裏切れないでしょ?)。愛が受け入れてもらえなければ大きく傷つくけれど、共感を得られることができたら何ものにも代え難い喜びを与えてくれる。なにより、好きを探求して何か作り、好きなことを伝えたりすることで仕事が楽しくなった。
本来ビジネスは、関わる人が好きかどうかよりも、より利益を生むとかより効率的かどうかで判断されるものだと思う。だけど、僕らは「愛」をトッププライオリティにおきながら、それでも長期的に見たら、それがビジネスとしても成功できることを証明したかった。そうやってトラベラーズファクトリーを作り、コラボレーションもイベントも行ってきた。
トラベラーズファクリーに行けば、好きなものが詰まった空間に、好きなスタッフたちがいて、それに共感してくれるお客さんがいる。まさにその場にたくさんの人たちの「愛」が詰まった空間だと僕は感じることができる(もちろん、すべての人がそう思ってくれる訳ではないと思うけど、それは当たり前のことだ)。
そして、そこで見るみんなのトラベラーズノートは、まさに使い手の愛がたっぷり詰まっている。それぞれの好きなチャームやステッカーでカスタマイズされ、紙面には楽しかった思い出やワクワクするアイデアが文章で綴られ、イラストやスクラップで表現されていることが多い。そんな風にトラベラーズノートを使うということは、かつて僕らがやっていたのと同じように、自分の好きを深掘りすることにもなっている。
自分の好きを明確にして、それを深掘りしていくことは、生活を豊かで楽しいものにしてくれる。本気で好きだと言えるものが見つかると、霧が晴れて目の前に道が開けていき、人生の指針みたいなものが見つかったような気分になることができる。たまに、「トラベラーズノートを手にすることで、生活が変わりました」と伝えてくれる方に出会うことがあるけど、きっとトラベラーズノートをきっかけに、自分の好きなことを追求するようになることで変わったのだと思っている。
トラベラーズノートの2025年ダイアリーのテーマを「LOVE AND TRIP」に決めた一番の理由は、やっぱり今の世界の状況だった。戦争が続き、今も罪のない人や子どもたちが殺されていることにやりきれない気持ちになる。それに主義主張や国籍が違うだけで罵り合う人たちがたくさんいる。歴史やデータを改ざんしたり、不本意な誤解を切り取ったり、嘘をついたりしてまで、対立を声高に煽る人もいる。そんなにことに対するトラベラーズらしいメッセージとして、「LOVE AND TRIP」がふさわしいと考えた。
ウェブサイトの文章に、戦争や争いに反対する気持ちを直接的に書かなかったのは、ネガティブな側面からではなく、ポジティブな言葉で伝えたかったからだ。トラベラーズノートは自分の好きなことを書くノートでありたい。争いを嘆き非難するより、前向きなメッセージでその思いを伝える方がトラベラーズらしいと思った。
現在、トラベラーズファクトリーには、海外からのお客さんも多く足を運んでくれている。そこで会うと、国籍とか関係なく誰とでも親しみを持って話をすることができるし、お客さん同士で楽しそうに話をしているのも見ることもできる。トラベラーズノートを開きながら、おすすめの場所やお気に入りの物を紹介しあう姿もよく見る。もしかしたら、政治的な立場の違う人同士で話すことだってあるかもしれない。だけど、好きなことを話していれば、そんなことは関係ない。国や宗教、右とか左で括るのではなく、あくまでも個人としてお互いに好きなことを話す。そうすれば、優しく思いやりを持って人と接することができる。
旅も同じだ。実際にその場所を訪れ、誰かと触れ合えば、そこに自然と親しみを感じることができる。かつて旅した場所で震災が起これば、よりリアルにそこに住む人たちの苦難を想像できるし、旅した場所で戦争が起これば、心から平和を願わずにはいられなくなる。それは、損得勘定のない心の奥底から自然と溢れ出る感情だ。
愛は、コンパスのように人生の指針を与え、誠実で優しく思いやりを持って人と接するよう導いてくれる。旅は、未知の土地やそこに住む人たちとの触れ合いを与えて、世界は心を持った個人一人ひとりで成り立っていることを教えてくれる。そして、愛があれば旅はもっと深く楽しいものになる。何か、誰かを愛して、旅に出よう。LOVE AND TRIPです。
まだ少し早いけど、2025年も愛が詰まったトラベラーズノートとともに良い旅を。