2024年8月19日

日本一周自転車旅 富山-敦賀編 後半

 富山からはじまった今回の自転車旅の終着地は、福井県敦賀。敦賀には北陸新幹線の終着駅がある。旅の最後の夜、今年3月の新幹線開業時にできたのか、駅前のやけに広くてきれいなスターバックスでコーヒーを飲みながら、このブログを書いています。

 この日の行程は、福井から敦賀までの約50キロ。距離が長いわけではないのに、この旅で一番ハードな1日だった。10時頃に福井を出発し、途中カフェでコーヒーを飲んだりして休み休み走り、お昼頃に越前市の温泉施設に着く。お風呂に入って休憩室で休んでいると、ファクトリー担当マネージャー青山からLINEが届いた。翌日に上陸する台風のため、中目黒を休業することに決めたので、そのことをインスタにあげてほしいとのこと。

 そうか、東京に台風が近づいているのか。自転車旅ですっかりニュースから遠ざかっていて、そんなことも気にしていなかったことにちょっと申し訳ない気持ちになった。早速、告知用の画像を作成してインスタにアップ。そういえば翌日には、自分も新幹線で東京に戻る予定だ。新幹線は走るのだろうか。ちょっと不安になり、敦賀駅に着いたら窓口で聞いてみようと思って、休憩を切り上げ出発した。

 そこから先が大変だった。国道なのに道幅が狭く、アップダウンの多い山道が続いた。富山からここまではほぼ平地だったので、山道の大変さを忘れていた。相変わらず容赦ない陽射しが照り付ける中で、長く厳しい坂道をのぼる。すぐに身体中から滝のように汗が溢れて、Tシャツも首に巻いているてぬぐいもびっしょりになった。

 すると、今度は急な下り坂だ。下りは体力より神経を消耗する。道路には自転車が走るスペースはなく、車の通行は多い。何度も脇をスレスレに車に抜かれ、思わずブレーキをかけてスピードをセーブする。トンネルに入ると道幅はさらに狭くなり、後ろから迫る車と荒れた路面の両方を気にしながら、神経をすり減らすようにして走った。それでもじわじわと体力を奪う上り坂よりまだいい。下りが終わり、上り坂になると憂鬱な気分になった。

 長い上り坂を登ったところで道の駅を見つけると、迷うことなく自転車を止めた。冷房が効いた建物の中で、冷たいソフトクリームを食べる。それでなんとか充電切れ間近のエネルギーを10%くらいまで回復させて、再び自転車に乗る。美しい海岸沿いの風景が見えてきたけど、それを楽しむ余裕もない。機械になったみたいに黙々と走り続けると、アップダウンもなくなり、風景は港町の様相を呈してきた。そして、やっと敦賀駅に到着した。早速、駅のみどりの窓口に行き、翌日の新幹線のこと聞いてみると、窓口の職員は「北陸新幹線は走ります」とはっきりと言い切った。

 安心すると、ホテルにチェックインをして、この町に一軒だけある昔ながらの普通の銭湯に行くことにした。東京の銭湯は、ペンキ絵が描かれていたりする壁に面して湯船があるのが一般的なんだけど、ここは風呂場の中心に楕円形の湯船がある関西方式。金沢や福井で入った銭湯は東京タイプだったこともあり、違う文化圏になったのを実感した。この日、自転車で走ったハードな山道が、かつては文化圏を分ける境目のような役割を果たしていたのかもしれない。

 お風呂上がりに脱衣所で、懐かしいビン入りのコーラを飲んでいると、昨年トラベラーズがデザインさせてもらった「湯道」ポスターが貼られているのを発見。旅先での出会いに思わず嬉しくなった。

 銭湯を出ると居酒屋に入ってこの旅最後の夕食をとる。僕はお酒の燃費は良い方なので、ビールは生1杯。だけど食べ物は、おでんから福井の郷土料理へしこの刺身にへしこのお茶漬けなど、お腹いっぱい食べた。なのにその後コーヒーを飲もうと入ったスタバで「フードロス削減で20%オフになっていますので、ぜひ」という声に誘われて、ケーキをオーダーしてしまった(昨年の富山と同じパターンだ)。

 今回の旅がいつもと違っていたのは、旅先で知り合いを訪ねることができたことだった。金沢では、久しぶりにBenlly’s & Jobを訪れ、店主の田中さんとお話しすることができた。田中さんは相変わらず気さくで優しく、工房の中に招き入れてくれて、ミシンや加工用の道具についていろいろ教えてくれた。

 さらに福井では、いつもトラベラーズノートの名入れでお世話になっている栗山さんに会うことができた。走っていて「芦原温泉」の看板を見つけると、栗山さんが住んでいる場所だと思い出し、「今、自転車で芦原温泉に向かっています」とLINEを送ってみた。すると突然の連絡にも関わらず、「駅に着いたら連絡ください」と返事が届く。芦原温泉駅に着き待っていると、栗山さんは自転車に乗ってさっそうと現れた。僕は束の間の2台でのツーリングを楽しみながらお蕎麦屋さんに行って、一緒にお昼ご飯を食べた。その後、カフェに移動し、コーヒーを2杯ずつ飲み、タバコを2本ずつ吸ってから、栗山さんと別れた。

 さて、10年前に東京からはじまった日本一周自転車旅も、青森を折り返し、日本海側を秋田、新潟、富山と下り、敦賀まで来た。ずいぶん遠くに来たけれど、その分この後のルートが悩ましい。本来であれば、次はこのまま鳥取へ行き、その後、島根を経由し下関まで行きたいけれど、そうすると、そこまで自転車を運びながら電車で移動する輪行が大変だ。敦賀から琵琶湖の脇を走っていけば、京都もそれほど遠くないし、そのまま神戸くらいまでは行けそうだ。その後も山陽新幹線のルートをたどれば、輪行もなんとかなりそう。とりあえず、どちらのルートにするのかは来年までゆっくり考えます。

 話は変わりますが、今週8月21日にトラベラーズノート 2025ダイアリーの情報を公式サイトにアップします。ぜひ、ご覧ください。