2024年8月13日

日本一周自転車旅 富山-高岡編

 拝啓、お元気ですか。
夏休みも始まり、例年通り日本一周自転車旅に出ています。一昨日の夜、昨年の終着地の富山駅を降り立ったとき、思いがけずこの1年にあったことを思い、「いろいろあったなあ」と感慨深い気持ちになりました。

 今は旅がはじまって3日目。富山県、高岡市、朝食を食べ終わった喫茶店で、このブログを書いています。

 高岡は富山から20キロほど西にある町です。この町について僕が唯一知っているのは、昔読んだ藤子不二雄Aの『まんが道』の舞台ということくらい。隣の市、氷見出身の藤子不二雄Aが、高岡に引っ越して転校した学校で藤子・F・不二雄に出会うことで、藤子不二雄が誕生しました。

 うーん、ややこしいので、以下はAとFにしますね。Aこと安孫子素雄氏と、Fこと藤本弘氏のコンビ、藤子不二雄がコンビを解消し、それぞれAとFと名乗るようになったのは、僕が18歳の頃。そのニュースを知ったときには、それなりに衝撃的でした。だって、『まんが道』では二人で描くことが他の漫画家との違いとして印象的に描かれていたし、コンビによる合作として幼少期から慣れ親しんだ『ドラえもん』も『忍者ハットリくん』も、「いや実はそれぞれ一人で描いていたんだよね」と言われ、なんだか裏切られたような気分になりました。

 ビートルズのホワイトアルバムが、メンバーの不仲や方向性の違いでほぼソロのような形で曲が録音されていたのを知ったときも(実際のところは分からないけど)ちょっとしたショックを受けたけど、藤子不二雄の作品が合作ではないのを知ったときは、それ以上に衝撃でした。

 だけど、その後あらためて漫画を読んでみると、AとFにはスタイルの違いが明確にあるのがわかります。特に僕自身、社会人になってからよく読んだ大人向けの短編漫画はそれが顕著です。Aは『笑ゥせぇるすまん』に代表される人間のどろどろした影の部分を剥き出した作品が多く、Fは、正統派SFのスタイルを持ち、しっかりしたオチのある作品が多い。まさに陰と陽。まったくスタイルは違うけれど、どちらも好きでした。僕にとって、藤子不二雄は幼少期から大人になるまで、ずっと作品に触れ続け、影響を受けてきた漫画家でした。

 そんなわけで、藤子不二雄にちなんだ場所がないかと調べてみると、氷見市に「藤子不二雄Aまんがワールド」、高岡市に「藤子・F・不二雄ふるさとギャラリー」があります。そこで、富山から氷見市を経由して、高岡市に入ることにしました。

 炎天下の中で自転車を走らせていると、富山出身のトラベラーズファクトリー店長から、おすすめのリストが届きました。疲れていたので、リストにあるカフェで休もうと行ってみると、とても素敵なカフェ。つい長居してコーヒーとケーキをいただきました。そのカフェがある内川という町も、運河が流れるとても美しい場所。運河を眺めながらゆっくり自転車を走らせました。

 氷見に着くとまずは、店長おすすめの足湯に浸かり、しばらく休みました。海の向こうには、能登半島があります。1月の震災からなかなか復旧・復興がなかなか進まず、この猛暑の中で不便な生活をしている方も多いと聞きます。この暑さの中で、エアコンがなかったり、水道が通っていなかったりするのは、ほんとうに大変だと思います。能登の方々の無事と早い復興を願わずにはいられません。

「藤子不二雄Aまんがワールド」へ。小さな町のこの手の施設に余計な期待はしてはいけません。だけど、『忍者ハットリくん』や『怪物くん』などの、Aらしい黒塗りのベタの割合の多い原画が見られただけで満足です。撮影スポットで喪黒福造にトラベラーズノートを持たせて写真を撮り、書棚に並ぶAの全集に後ろ髪を引かれながら、高岡市に向かいました。

 氷見の「Aまんがワールド」から、高岡の「Fふるさとギャラリー」まで14キロ。汗をたっぷりかきながら走り、建物に着くと、まずは冷房に救われたような思いになります。どこでもドアを模した入り口から会場に入ると、ここはかなり充実しています。『まんが道』でも描かれていた手塚治虫からのファンレターの返事に、高校時代にAと作った『少太陽』も並んでいます。『少太陽』は、漫画はもちろん、イラスト入りのコラムに広告までがある手描きで手作りの雑誌。この高岡でAとFの二人の天才が奇跡のように出会って、藤子不二雄が生まれたんだと思うと、感慨深くなりました。

「Fふるさとギャラリー」は、高岡市美術館の中にあります。そこで開催していた「ロートレックとベル・エポック」を見てから、ホテルのある町の中心地に向かいました。ホテルに着く途中で、日本三大大仏のひとつと呼ばれる高岡大仏を発見。この大仏もまた、『まんが道』で何度か登場します。嬉しくなって写真を撮りました。

 そんなわけで、高岡は藤子不二雄巡りのような旅となりました。さて、次は金沢に向かいます。幸い、天気は曇り空で陽射しも少し弱そうです。今回は、前回のゴール、富山から北陸新幹線の終着駅、敦賀まで向かう予定です。この日本一周の自転車旅も東京を出発し、白河まで走った最初の旅からもう10年になりました。10年前と比べると、日本の夏はかなり厳しくなった気がするし、10年分歳をとって体力もそれなりに衰えました。無理をせず、休み休み走っていこうと思います。

 暑い日が続きますが、皆様もご自愛ください。