2024年9月19日

マレーシアより


 拝啓、お元気ですか。
 マレーシアのクアラルンプールから東京に向かう飛行機の中で、この手紙を書いています。できればマレーシアを発つ前に手紙を書きたかったのですが、イベントに加え、歓迎の宴もあって、なかなか机に向かう時間が持てませんでした。それにしても連日マレーシアの人たちの温かさに、とても感動しました。なんというか、儀礼的でない心からの優しさに触れ、終始満たされた気持ちで旅をすることができました。今は楽しかった旅がついに終わってしまう寂しさを全身で感じながら、手紙を書いています。

 今回マレーシアでトラベラーズのイベントを行うことのなったのは、昨年10月にラムさんと打ち合わせをしたことがきっかけでした。あ、でもまずはラムさんの説明をしないとですね。ラムさんは、マレーシアのスレンバンで、トラベラーズカンパニーのパートナーショップ、TABIYOを営んでいます。

 ラムさんがトラベラーズノートと出会ったのは、今から14年前のことでした。もともとノートやステーショナリーが好きだったラムさんは、台湾の雑誌でトラベラーズノートの記事を読んで、どうしても欲しくなりました。ちょうど日本へ旅行する友人がいたので、彼女に託して買ってきてもらい手に入れました。そして、その瞬間、すぐにトラベラーズノートの魅力に夢中になりました。

 その後、トラベラーズノートの世界をマレーシアの人たちにも伝えたいと思い、12年前にトラベラーズノートを販売するオンラインショップTABIYOを立ち上げます。さらにその4年後、生まれ故郷でもあるスレンバンに実店舗をオープンしました。ラムさんによるトラベラーズノートの素敵な使い方や、心から好きだという思いの発信が、マレーシアでトラベラーズノートを使う方が増えていくきっかけになり、さらに大きなコミュニティーに発展していきました。

 話は少し変わりますが、コロナ禍が始まるなんてことはまったく予想できなかった頃のこと。韓国、香港、台北、上海とイベントを行い、なんとなく次はマレーシアで行いたいね、と仲間で話をしていました。まさにこれから計画を立てようというタイミングでコロナが始まってしまい、それどころではなくなってしまいました。

 それから何年か経ち、コロナも落ち着いてきた昨年10月。そろそろまた海外でのイベントを再開したいねと話していたタイミングで、ラムさんが日本にやってきました。ラムさんはマレーシアでのイベントを提案。そうなるともう断る理由もありません。あの日から、今回のイベントに向けたいろいろなことが転がり始めたのです。

 今回の旅の最初の目的地はTABIYOです。空港から首都のクアラルンプールとは逆方向に約40分ほど車で走り、TABIYOがあるスレンバンに着きました。大きなビルはほとんどない歴史を感じる小さな町といった印象です。夜7時頃にスレンバンに着くと、まずはみんなで夕食を食べて腹ごしらえをしてからTABIYOに向かいました。TABIYOは町の中心から数キロ離れた、さらに静かな場所にありました。

 白くペンキで塗られたコンクリートの2階建の建物は、南国らしく開放的な佇まいです。その1階がTABIYOで、2階から上はラムさんと旦那さん、娘さんの3人が暮らす住まいになっています。

 1階のドアを開けて店内に入ると、とても素敵な空間が広がります。トラベラーズノートを中心とした商品だけでなく、実際にラムさんが使っていたリフィルがところどころに飾られ、昔作ったフライヤーやパッケージ、イベントのポスターなどがコレクションのように飾られています。さらに店内にはソファーやベンチがあり、奥にはコーヒーカウンターもあってそこでくつろぐこともできます。ラムさんのパーソナルな趣味や愛がたっぷり感じられ、お店でありながらも同時にラムさんのお家に招待されたような気分になりました。

 TABIYOに着くと早速僕らは、翌日開催するスパイラルリングノートバイキングの準備を始めました。まずは、テーブルにお皿を並べてその上にさまざなな種類の紙を置いていきます。さらぶ壁にポスターを貼って、天井からはロゴをプリントしたガーランドを吊るし、看板を設置します。まるでラムさんの家で開催されるパーティーの準備をしているような気分です。でも、イベントだって大切な人を招待するパーティーみたいなものです。ラムさんたちと一緒に、翌日やってくるお客さんが喜ぶ顔を想像して準備する。そんな時間は楽しくないわけがありません。異国であれば尚更です。

 翌日のイベントが素晴らしいものになったのは言うまでもありません。マレーシアはもちろん、シンガポールにインドネシア、中国、オーストラリア、フィリピンからも来てくれた方もいて、みんながノート作りを楽しんでくれました。さらにみんなノートを見せ合い、写真を撮り合い、サインの交換をしたりして、同じ価値観を共有する愛に満ちた空間になりました。ほんとうに充実した2日間を過ごして、その後、クアラルンプールに移動しました。

 観光地として特に有名でもないスレンバンという町には、TABIYOがなければきっと一生訪れることはなかったと思います。だけど、この旅で素敵な思い出とともにスレンバンという町が、僕らの記憶に深く刻まれました。ラムさんがトラベラーズノートに出会いTABIYOを立ち上げたことで、マレーシアでトラベラーズノートが広まり、そのことがきっかけでイベントを開催することになり、僕らがこの地を訪れ、同じものが好きな仲間も集まる。まさにトラベラーズらしいイベントになったと感慨深く思います。

 さて、マレーシアの旅はその後も続くのですが、そろそろ東京に近づいてきたようです。続きはまた後日綴ろうと思います。