2024年9月 9日

ダイアリー2025とタイムズ19

 いよいよ今週は、トラベラーズノート2025ダイアリーの発売です。先週、届いたばかりのカスタマイズシールの封を開けてダイアリーの表紙に貼り、トラベラーズファクトリーに並べるサンプルを作った。「LOVE AND TRIP」がテーマだから、赤を多用していたり、ハートモチーフがあったりして、僕みたいなおじさんが使うにはかわいらしい仕上がりになってしまうのを懸念していたけれど、「ラブ&ピース」を歌う70年代ロックバンドのアルバムジャケットみたいになった(と個人的には思っている)。うん、いい感じです。

 ダイアリーのサンプルとともに、トラベラーズタイムズの最新号も手元に届いた。印刷前に何度も校正をしたのに、この段階でミスを発見してしまったことが以前あって、最初に眺めるときはいつもちょっとした緊張感が漂う。刷り上がったばかりのうっすら漂うインキの匂いがその緊張感を高める。だけど、この匂いは嫌いじゃない。

 トラベラーズノート発売の年から毎年、年に1回発行しているトラベラーズタイムズも今号で19号になる。表紙を含めてたった8ページの小冊子だけど、19号全部あわせると152ページ。ちょっとしたムック本くらいのページ数にはなるのかな。そこに至るまで19年もかかっているわけだから、別に自慢できることではないかもしれない。それでも、スローでも一定のペースを保ちながら長い距離を走り続けてきた長距離ランナーのように、しみじみと充足感を味わうことはできる。

 例え効率が悪くても、飽きることなく粛々と続けることで生まれる価値があると思っている。それがトラベラーズの世界を構築し、何らかの文化の一端みたいなものを作ることに貢献していると信じている(ほんのささやかなレベルであるにせよ)。僕らがやりたいのは、ただ売上や事業を拡大することではなく、世の中の人たちの心に前向きな変化をもたらし、薄暗く霧の深い世界で、進むべき旅路に明かりを灯す灯台のような存在にトラベラーズノートをしたいということだ。それができているか分からなくても、僕らは自分たちが経験した実感だけを頼りに、19年間続けている。

 これから何号作れるのかは分からないけど、可能な限りは、毎年悩みながら、ときには辛かったり、ときには楽しんだりしながら、トラベラーズタイムズを作り続けていくんだろうな。

 さて、今回のトラベラーズタイムズのテーマは、4月に発売したTOKYO EDITIONにちなんで「TRAVELER'S notebook in Tokyo」とした。当たり前だけど、TOKYO EDITIONをきっかけに僕自身も自分が住む場所でもある東京についてあらためて考えるようになった。

 ここ数年、自転車通勤をはじめたり、あえて都内のホテルに泊まったりすることで東京の新たな魅力を知ったこともあった。正月休みに観た映画『PERFECT DAYS』もそう。映画のスクリーンに映る家の近所の風景は、ちょっとした衝撃を僕に与えた。そんなことをタイムズで表現したいと漠然と思っていた。

 そんな中、今年の5月に出展した「森、道、市場」で偶然、電気湯の店主に出会った。電気湯は、映画『PERFECT DAYS』で主人公の平山が毎日通っている東京下町の銭湯で、同時に自宅の近所にあって僕がよく通っている銭湯でもある。その店主と愛知県蒲郡で開催されたフェスで出会ったのも不思議な縁だけど、さらに嬉しかったのは、彼が学生時代からのトラベラーズノートユーザーでもあったことだった。「一緒に何かできたらいいですね」と自然に話は盛り上がった。

 その後、タイムズの制作がはじまると、銭湯もまた東京を象徴する場所だと思い、電気湯を取材させてもらうことにした。すると店主は快諾してくれて、まだオープン前の電気湯の中に入れてくれた。普段は入ることができない、映画の撮影で使われた女湯の中に足を踏み入れることもできた。窓の光が美しかったのでヴィム・ヴェンダース監督が女湯を選んだと教えてくれた通り、外は雨が降っていたのに、風呂場にはやさしい光が差し込んでいた。

 早速、僕は風呂場のイスの上にトラベラーズノートを置いて、写真を撮影してもらった。もしかしたら、このイスに役所広司氏が座ったのかもしれない、なんてことが頭をかすめたけれど、もちろん口にはしなかった。19号のタイムズの表紙はその写真を使ったのだけど、10代の頃からヴィム・ヴェンダース監督の映画が好きで、毎週通うほど銭湯が好きな僕にとって、嬉しい表紙になった。

 さらに脱衣所に風呂場はもちろん、風呂場の奥にある関係者用のドアの奥に、番台の中など、普段は入れない場所まで見せていただいた。僕らは、取材であることを忘れて、記念撮影をしたりして楽しませてもらった。また、まだ30代の電気湯店主、大久保さんの話も楽しく、あっという間に時間が過ぎた。

「How Do You Use TRAVELER’S notebook」は、今年3月と4月に中目黒と京都で展示イベントを開催した、イラストレーターでエッセイストの沢野ひとしさんにご登場いただいた。
 
 そんなわけで、トラベラーズタイムズ19号は、TOKYO EDITIONを通じて考えたこと、さらにその発売前後に繋がった方々との出会いによって、構成されています。9月12日より、トラベラーズファクトリー各店で配布します。また、トラベラーズノート扱い店舗でも配布予定です。2025ダイアリーとともに、手にとっていただけたら嬉しいです。

 話は変わりますが、今週末はマレーシアでイベントです。コロナ以降はじめての僕らが参加しての海外でのイベントということで、不安もありますが、それ以上に楽しみでもあります。その模様はこちらでも報告したいと思います。