2024年9月24日

LOVE AND TRIP in Malaysia

 いつものことなんだけど、旅から帰って1週間も過ぎると忙しい日々に翻弄されて、旅をしていたのがずいぶん前のことのような感覚に陥ってしまう。なので、旅の最中に感じた熱を忘れないように、マレーシアの旅の続きを書こうと思う。

 つまるところ日記を書く意義は、そのときに心に浮かんだ感情を忘れないためにあるような気がする。日々おそってくるさまざまな感情に上書きされて、僕らはそのときどきの心の動きをいつか忘れてしまう。負の感情を忘れることは悪いことではないかもしれないけれど、感動や喜びを味わったときの感情の記憶は、何かを産み出す指針になり、寒い夜に誰もいない荒野で灯す焚き火のように心を癒し温めてくれる。歳をとるほどに、そんな記憶の蓄積がかけがえのない財産であるのを実感するんですよね。

 マレーシアの旅では、そんな記憶のアーカイブにストックしておきたくなる感動をたっぷり味わうことができた。

 TABIYOでの2日目のノートバイキングを終えて、スレンバンでの最後の夕食をみんなでとると、マレーシアの首都クアラルンプールに向かった。1時間ほど車で走ると、賑やかな夜の街にマレーシア限定リフィルの表紙にあるツインタワーが光るのが見えてきた。ツインタワーだけでなく、同じような高さの超高層ビルがいくつもある。のどかで小さな地方の古都といった感じのスレンバンからやってきた分、クアラルンプールの賑やかさがより印象的に感じる。夜の10時を過ぎているのに、何度か渋滞にはまりながらホテルに着いた。

 その翌日の朝、この最初のイベント会場のstickerrificに向かった。ここもまた店主のシトーさんはじめ、ほとんどのスタッフがトラベラーズノートのユーザーでもある。シトーさんはイラストレーターでもあり、彼女が主催のスケッチイベントやワークショップなどを定期的に開催している。この日は、キャラバンイベントにあわせて「TRAVEL & SKETCH」を開催。僕らも一緒にそのイベントに参加させてもらった。

 イベントの時間が近づくとお客さんが続々と店内に集まってきた。マレーシアだけでなく、インドネシア、シンガポール、中国などからの参加者もいる。シトーさんが最初のあいさつで、「インドネシアから来た方は?」とか「シンガポールは?」と国名と共に英語で呼びかけると、そのつど歓声が上がる。多民族国家であるマレーシアでは、ほとんどの人が英語を話すこともあって、他国の人とのコミュニケーションに抵抗がない。イベントにさまざまな国から人が集まるのも特別なことでもないことなのかもしれない。

 イベントでは、まず参加者は外に出て、近くにある小さいけれど素敵なショッピングモールに移動する。そして、そこでそれぞれスケッチを楽しんでくださいと言われる。なんだかとても自由というか、放任主義なイベントだなと思いつつ、僕らもその中のカフェに入ると、トラベラーズノートを取り出した。僕らの隣の席では、インドネシアから来たグループがすでに絵を描き始めている。

 カフェのインテリアに近くにある郵便ポスト、マレーシアの食べ物やこの辺りのマップを描いたり、描くものはみんなさまざまだ。僕はブログ用の絵を描こうと思って、先週アップした絵を描きはじめた。いつもはひとりで描いているのに、ひとつの場所にたくさんの人が集まり、みんなでトラベラーズノートに絵を描いている。なんだろうこの感覚。僕は中学時代の美術の授業を思い出した。

 他の授業では、隠れるようにしてノートや教科書の端に落書きばかりしていた僕にとって、堂々と絵を描くことができる美術は、数少ない好きな授業のひとつだった。それに、僕が好きな絵を描くという行為を他の人たちと共有できるのも嬉しかった。そして、今、仕事の出張として来たマレーシアで、アジア各国から集まった人たちと一緒にトラベラーズノートに絵を描いている。それだけで、僕はなんだか幸せな気分に包まれた。2時間ほど絵を描くと、最後にできあがったみんなの絵を持ち寄って並べて記念撮影をして終わった。最初は自由なイベントだと思ったけど、最後には30人以上の参加者がみんな笑顔になれたすばらしい時間だった。

 stickerrificでのイベントを終えると、次にCzipLeeに向かった。ここでは、トラベラーズノートの歴史に、マレーシアユーザーのトラベラーズノートなどを展示するトラベラーズミュージアムが開催。さらに香港からパトリックを招き、ギャザリングイベントも行われている。会場に着くと、ちょうどパトリックもいて、久しぶりにゆっくり話をすることができた。

 歴史や過去のアーカイブも素敵に展示してくれたし、ショーケースに並ぶマレーシアユーザーのトラベラーズノートはどれもすばらしい。イベントの最後には、パトリックによるトークイベントに参加。僕も少しだけ話をする時間をいただいたので、パトリックとマレーシアのユーザーたちに感謝の気持ちを伝えた。

 さらに、この日は、CzipLeeの主催でトラベラーズをテーマにしたディナーをいただきながら(ほんとうにおいしかった)、主催者とユーザーと一緒になって参加するパーティーが行われた。TABIYOのラムさんに、ノートバイキングからスケッチイベントに来てくれてすっかり顔見知りとなった方もたくさん参加。そんなみんなと、おいしい料理とお酒をいただきながらの宴は、まさにマレーシアイベントの打ち上げのようで、最高の時間になった。

 マレーシアイベントの各会場では、僕らは主催者側であるにもかかわらず、まるでゲストのようにもてなしてくれた。さらに足を運んでくれたお客さんもまた、笑顔で僕らにトラベラーズノートへの愛をたっぷり伝えてくれた。何度も「マレーシアに来てくれてありがとう」とか「トラベラーズノートを作ってくれてありがとう」という言葉を聞くことができた。だけど、僕らがマレーシアに来ることができたのは、ここに集まってくれたみんながいるからだ。僕らがトラベラーズノートを作っているけれど、その世界を広げ、価値を高めてくれているのは、世界中で愛情を持って使ってくれる人たちだ。

 トラベラーズノートをブランドと呼ぶならば、それはデータやターゲットの分析などのマーケティング戦略で生まれたわけではない。作り手や仲介者を含めたすべてのユーザーたちによる深い愛情と、そのことを通じて体感する感動や喜びの記憶の集積によって作られていったのだ。今回の旅を通じて、ますますそう思った。

 ちょうど「LOVE AND TRIP」をテーマにした2025ダイアリーが日本で発売された直後。そんな中で「LOVE AND TRIP」を実感できる旅ができたのが一番の収穫だったかもしれない。そういえば、マレーシアではおいしいものもたっぷりいただいたんだけど、それはノートの方に描きました。