2024年10月28日

USA ROAD TRIP

 いよいよ今週末、イベントのためにアメリカに向けて出発する。前回、ロサンゼルスとニューヨークのエースホテルでイベントを開催したのは、2017年11月だったから、ちょうど7年ぶりのアメリカになる。つい最近のことのようだけど、あれから7年も経ったんですね。あらためてこの7年のことを思い返してみた。

 2020年、エースホテルから誘われたことがきっかけで、トラベラーズファクトリー京都をオープン。さらにアメリカのロサンゼルスに住まいを移していたスタッフが、公式のオンラインショップとしてトラベラーズカンパニーUSAをオープンした。どちらも、その前からそれなりに時間をかけて粛々と準備を重ねてからの立ち上げになった。

 ただ、2020年は、ご存知のようにコロナ禍の始まりのタイミング。実質的に国境が分断され、行動制限や感染リスクがある中、先行きが不透明な始まりとなった。トラベラーズファクトリー京都は、当初見込んでいた海外からのお客さんはほぼゼロ(というか、しばらくは関西圏以外のお客さんもほとんどいなかった)。アメリカの方は、オンラインショップということもあって、売上面では予定通り進んでいたけれど、コロナ禍での新規事業の立ち上げということで、想定外の苦労も多かったと思う。

 それでもめげずに続けていくことで、コロナ禍が落ち着くにつれて、トラベラーズファクトリー京都は少しずつお客さんが増え、アメリカもオンラインショップの運営だけでなく、イベントに参加したり、パートナーショップを増やしたり、活動の幅を広げていった。その甲斐もあって、ありがたいことに今では京都には海外からたくさんのお客さんが訪れ、アメリカでも以前よりトラベラーズノートユーザーが劇的に増えている。アメリカのイベントで行うノートバイキングの予約があっという間に埋まってしまった、との報告を受けて、あらためてそのことを実感した。

 今回のイベントは、1年以上前からアメリカのスタッフと一緒になって、テーマを考え、内容や場所を詰めて、実現することになった。イベントのテーマが「USA ROAD TRIP」ということで、アメリカのスタッフは、最初の会場のロサンゼルスから次の会場のサンフランシスコまで、荷物を積んでみんなでバンに乗ってロードトリップで移動することを提案してくれた。

 僕にとっても、アメリカでの旅のイメージとして最初に頭に浮かぶのは、やっぱりロードトリップだ。映画『イージーライダー』ではチョッパーのハーレーで、『パリ・テキサス』ではボロボロのピックアップトラックで、荒野に一直線に続くアスファルトの道を走る。ジャック・ケルアックの小説『オン・ザ・ロード』では、主人公はヒッチハイクで車に乗ってアメリカを横断。ブルースシンガーのジャニス・ジョプリンは、息の詰まる保守的なテキサスからグレイハウンドのバスに乗って、ヒッピーの聖地、サンフランシスコへ旅立った。映画や小説、音楽などのアメリカンカルチャーをたっぷり浴びて育った僕にとって、ロードトリップはアメリカの憧れの原風景だ。

 会場で流したいからと「USA ROAD TRIP」のプレイリストを作ってほしいと依頼をアメリカのスタッフから受けたんだけど、昔、ドライブ中のBGMをカセットテープに録音したときのことを思い出しながら、選曲した。

 西部の荒野を思わせるライ・クーダーの渋いスライドギターで始まり、夜の高速道路をラジオを聴きながら車を走らせる姿を歌うモダンラヴァーズの「Roadrunner」が続く。さらにカーティス・メイフィールドの「Move On UP」に、ダイナソーJRの「ワゴン」へと続く。みんな僕が昔から好きなアメリカのミュージシャンの曲だ。さらにカリフォルニアやサンフランシスコ、ロサンゼルスが登場する曲に、車やドライブをテーマにした曲を選んだ。

 アメリカ映画のロードトリップのシーンに流れる曲を選ぶと、そのシーンが頭に浮かんで楽しい。エルトン・ジョンの「タイニーダンサー」は、映画『あの頃、ペニーレインと』で、バンドがツアーのためにバスで移動するシーンで流れる。長いツアーで険悪になっていたメンバーがこの曲をみんなで合唱することで、再び一体感が生まれる。ニルソンの「Everybody's Talking」は、『真夜中のカーボーイ』で、主人公がグレイハウンドのバスに乗って、テキサスから意気揚々とニューヨークに旅立つオープニングシーンで流れる。

『ウォールフラワー』で、傷ついた若者たちが夜のトンネルを車で疾走するシーンで流れるデヴィッド・ボウイの「Heroes」も感動的だ。『サンダーボルト』のラスト、クリント・イーストウッドが、田舎の牧歌的な風景を白いキャデラックで走る中でポール・ウィリアムスの「Where Do I Go From Here」が流れるシーンもいい。

 そういえば、最近観た『シビルウォー』もロードトリップムービーだった。冒頭、3期目のアメリカ大統領の政府に対して、カリフォルニアとテキサスの2州同盟が分離独立し内戦状態にあることを伝えるニュースが流れる。ちなみに憲法上大統領は2期までしか就任できないので、この大統領は憲法違反か憲法改正をしたことを意味している(ちなみにトランプは、今回の選挙で大統領に就任したら3期目も目指すと公言している)。民主党支持州のカリフォルニアと共和党支持のテキサスが同盟をすることで、独立派の支持政党をぼかす設定も巧みだ。

 映画では、そんな内戦状態のアメリカで、カメラマンと記者がニューヨークからワシントンDCまでの紛争地帯を車で旅をする。詳しい話は、長くなるから書かないけれど、前回の選挙直後に合衆国議会議事堂襲撃事件があったのを思い出せば、ありえない世界ではないのかもしれないと考えてしまう。そんなドキュメンタリーのようなリアリティーを感じた映画だった。

 映画のラストで、思いがけず僕の好きなスーサイドの「Dream Baby Dream」が流れたので、その曲を「USA ROAD TRIP」プレイリストの最後に加えた。アメリカではサンフランシスコでのイベントの前日が大統領選挙の投票日になる。日本では、ちょうどこのブログを書いている日が衆院選。僕もさっき投票をしてきたところだ。

 Dream Baby Dream
 I see that smile on your face, my baby
 You got the idea now
 It’s those dreams
 It makes you free, baby

 夢を見ようよ、ベイビー、夢をね
 君の笑顔さえ見られればいいんだ
 
 何かを思いついたんだね
 それはみんな夢なんだよ
 それは君を自由にしてくれるはずだよ

 僕らが憧れたアメリカは、夢にあふれた自由の国だ。もちろんきれいごとばかりではないのは知っているけれど、でも、そんなアメリカを旅してみたい。