19年と31年
今年の3月でトラベラーズノートが発売して19年。なので、来年は20周年ということになる。そんなわけで、「20周年はなにか特別なことをするんですか?」とか「どんな商品を出すんですか?」と、最近、社内外の人からよく聞かれる。
そんなときは正直に、「いやあ、まだ何も決まっていないですよ」と答える。実際、今は来月に発売する「LOVE AND TRIP」の追い込みでいっぱいいっぱいだし、他にも早急に解決しなければならない案件がいくつかあって、来年のプランには、ほとんど手がつけられていない。
そういえば15周年のときだって、周年記念の企画を特に考えていなかった。そのタイミングでリリースしたB-Sides &Rarities コレクションには、あえて15周年という言葉は明記していない。
同じ年に出版した『トラベラーズノート オフィシャルガイド』も、こちらとして15周年という思いは別になかった。だけど、出版社の方から「15周年記念ということで」と言われたので、橋本は15周年記念ロゴをデザインして、おまけのステッカーのひとつに加えた。台湾ビールとのコラボレーションにも、15周年記念を意味するロゴが記されたけれど、これもたまたまそのタイミングだったからだ。
15周年の頃は、ちょうどコロナ禍だった。そのため、人が集まるイベントの企画は難しかったし、ましてや海外でイベントをするなんてことはまったく考えられなかった。僕らがトラベラーズノートを通じてやりたいのは、人と出会い話をしたり、何かを体験したり、新しい旅に出たりするのを促すこと。今思うと15周年を積極的に打ち出さなかったのは、それらのことを安心してできる状況ではなかったのが一番の理由だったような気がする。
「LOVE AND TRIP」のリリースも無事に発表されたし、さすがに先週辺りから「来年は20周年だよね」なんて話をぼちぼちとするようになった。もちろん、まだ具体的な話というよりは、やりたいこととか妄想のようなことを無責任に語り合う段階で、まだ何も決まっていない。
とにかく、来年はトラベラーズノートの20周年、さらにトラベラーズファクトリーは15周年になる。自分で言うのもなんだけど、ひとつの商品が20年続くのも、お店が15年続くのも、なかなか立派なことだと思う。商品とかお店を立ち上げるのは大変だけど、それを育てて長く続けていくのはもっと大変なこと。まずはあと1年がんばりましょう。
先日、金沢の雑貨店「benlly’s & job」の店主、田中さんのトークショーを聞く機会があった。田中さんは、トラベラーズファクトリーができるときに、店を運営する上での大切なことをたくさん教えてもらった僕らの師匠のような存在で、今も人気のくまノートや革小物などを仕入れさせてもらっている。
トークショーのテーマは、長く続けること。昨年、30周年を迎えた「benlly’s & job」の田中さんがゲストとして参加し、話をした。まだインターネットがそれほど普及していない時代にヨーロッパへ仕入れの旅に行ったり、ものづくりに興味が出て自らオリジナルの革小物を作るようになったり、コーヒーや自転車など自分の好きなことで商品の幅が広がったり、あらためて30年の歴史をおもしろく聞くことができた。
「自分の興味とともに、お店も変わっていったんです」と言うとおり、「benlly’s & job」は、田中さんの好きなものがたくさん詰まった空間であることが何よりの魅力。いつもフットワーク軽く、興味の赴くままに新しいことを取り入れて、変化していくことで、ものづくりやお店を生業として30年続けてきたことにあらためて尊敬した。
そんななかで、田中さんがお店を続けていくコツとして、「楽しそうに仕事をすること」と語っていたのが印象的だった。いつも好きなことを楽しそうにやっているように見える田中さんだけど、仕事としてやっていれば、当然辛かったり、大変だったりすることも当然たくさんある。だけど、「そういう姿はお客さんに見せずに、ちょっとは無理をしてでも、楽しそうにしていることを意識しているんです」と言った。
その言葉に、あの飄々とした優しい笑顔の裏にある田中さんの信念のようなものを感じた。そうなんだよね。楽しいことをやるには、その裏にはたくさんの苦労が伴う。もっと楽しいことをやろうとすれば、その分苦労も多くなるのも事実。そこに飄々と笑顔で向かっていける度量とか力をつけていかないとダメなんだよなあ。やっぱり田中さんは、今でも僕らの師匠であり、人生の先輩であり、永遠に追いつけない存在だと思った。
「benlly’s & job」は今年31周年を迎えるけれど、トラベラーズノートはまだ19周年で、トラベラーズファクトリーは14周年。まずは、来月、現時点での僕らの集大成でもある、トラベラーズノート LOVE AND TRIP がまもなく発売されます。こちらを楽しみにしていただけると嬉しいです。