TRAVELER'S books 家を出る少年
少年の頃は、誰でも家とか両親に居心地の悪さを感じて、家出に憧れを抱く事があると思います。自分もそうでした。実際に家出をすることはありませんでしたが、会社に入ったときに地方営業所への配属を希望したのは、家を出たかったというのが一番の理由でした。
家を出るというのは、誰にとっても大事な通過儀礼なのかもしれません。夢を抱いていたり、今の現状を打破したかったり、風来坊に憧れたり、若い頃のそんな気持ちは旅への大きな原動力になります。そんな気持ちを思い出させてくれる本を選んでみました。
「ライ麦畑でつかまえて」サリンジャー著
高校時代に産休の先生の代わりにやってきた先生は、いきなり最初の授業で本のリストのコピーをくばり、この中から1冊読んで感想文を書きなさいと言いました。私はその中から、この風変わりな題名の本を選びました。
全寮制の学校を抜け出して、ニューヨークの街をさまよう主人公は、世の中の欺瞞に嫌悪感を抱き、逆に純粋なものに愛情と憧れを持ちながらも、それに対してうまく対処できず、うろたえて苦しみます。高校時代、輝いて楽しい毎日というより、不器用に不安をやり過ごす生活を送っていた自分にとって、この本が大きな救いになりました。主人公と同年代の頃に、この本を紹介してくれた先生にはとても感謝しています。その本のリストに載っている本はその後すべて読みました。
そういえば、昔付き合っていた女の子に、この本をプレゼントしたらすっかりこの主人公のことを好きになってしまい複雑な思いをした、なんていう青臭い思い出もあります。 また、村上春樹氏が「キャッチャー イン ザ ライ」という題名で同作を訳しています。
「スタンドバイミー 恐怖の四季秋冬篇」スティーブン・キング著
小説を忠実に映像化した映画も良いですが、小説だとより感情移入してあの世界に浸ることができると思います。内容は、ご存知だと思いますが、複雑な家庭事情をもつ4人の少年が死体探しの旅に出る話です。それと同時に、それぞれのどうしようもない現実と夢が4人を引き裂いていくのを予感させます。旅は少年の心の中を素直にさらけ出します。そんな少年達の心の動きが、とても美しく描かれています。
スタンドバイミーは、恐怖の四季という4つの連作の中の1作ですが、春秋篇に掲載されている「刑務所のリタ・ヘイワース」は、名作映画「ショーシャンクの空に」の原作です。
「家出のすすめ」寺山修司著
本の題名からして挑発的です。天井桟敷というアングラ劇団を率いていた作者の世界観は、保守的な価値観への嫌悪と挑発に満ちあふれています。ここで言う家出とは、自由や自立、創造や反骨の象徴なのかもしれませ
ん。彼の母親や故郷青森を語る口調は、非難や嫌悪に満ちていますが、その裏には隠す事のできない深い愛情が見えるので、とても味わい深く伝わってきます。この本に描かれている70年代の時代の雰囲気を感じ取れるのも、魅力です。
「最低で最高の本屋」松浦弥太郎著
前に紹介したCOWBOOKSの創始者、松浦弥太郎氏の自伝的な内容を含んだ本です。高校を中退して、アメリカへと旅するなかで仕事として本を扱うようになっていく経緯が書かれています。自分の好きな事を追求し、誠実に地に足がついた形で、強い思いをってやっていけば、いつか何かを成し遂げられる。そんな希望に満ちあふれた本です。彼の文章は優しく暖かく読者の心を勇気づけます。
「ロッキン・ホース・バレリーナ」大槻ケンジ著
ロックと旅が好きならきっと楽しく読める小説です。メジャーデビューを目指すバンドが、マネージャーの屈折した元バンドマンのおじさんと地方ライブハウスを巡る旅に出るお話。途中、家出少女がその旅に加わり、話は展開していきます。
くだらない部分もありますが、著者の実体験に基づいたバンド絡みの話が全体にリアリティーを加え、本の世界に引き込まれていきます。なにより著者の深いロックへの愛情が、ぐっと胸をうちます。やっぱり、ロックっていいなあ。