Wouldn't it be nice /素敵じゃないか
これは発売時に本屋で見かけたときには、スルーしてしまった本。帯に書かれたキャッチコピーは「村上春樹Xブライアン・ウィルソン」とあって著者よりも訳者名を全面に出した売り方にちょっと嫌悪感を感じたからかもしれません。
でも、ビーチボーイズも村上春樹も大好きだし、ペットサウンズは何度も聴いてるフェイバリットアルバム。数ヶ月後に見かけたときには迷わずレジに持っていきました。
ペットサウンズがロック史上屈指の名盤として位置づけられている理由として、その音楽的な美しさや革新性、そのコンセプトメイキングの完成度の高さなどがあるのはもちろんですが、あわせてブライアン・ウィルソンが、孤独や不安、居心地の悪さなど不安定で憂鬱な心情をを隠すことなく表現し、それにより同じようなことに悩まされている人達を救ってきたことがあるのだと思います。
少年時代に誰もが感じる不安感や孤独感は、純粋に人や物事に向かい合おうとしたときに相対的にあわられる感情で、新しいモノや美しい作品、素晴らしい何かを生み出そうとするときには、それが大きなパワーにもなります。ブライアン・ウィルソンは、それを「ペットサウンズ」という圧倒的な輝きをもつ美しい作品によって証明することで、そんな負の感情に前向きに立ち向かう勇気を与えてくれました。
この本はペットサウンズを聴いたことがなくて、今後聴こうという意思のない人にはきっと意味がない本だと思います。でも、ちょっとでも聴こうかなと思っていた人が読んだら、深く何度も聴かずにはいられなくなる本です。著者の思い入れたっぷりの情緒的な評論と、あわせて深い洞察力に基づいた音楽的な解説は、もう一度ペットサウンズにきちんと向かい合うきっかけを与えてくれました。
それぞれの章のタイトルが、歌詞の一節を引用したものになっているのですが、それを読むだけでグっときます。村上春樹氏の訳す歌詞が読めるのも魅力ですね。最後にその目次を引用しておきます。
プロローグ
「僕にはちゃんとわかっているんだ。自分が間違った場所にいるってことが」
第1章 「ときにはとても悲しくなる」
第2章 「僕らが二人で口にできる言葉がいくつかある」
第3章 「キスがどれも終わることがなければいいのに」
第4章 「ひとりでそれができることを僕は証明しなくちゃならなかった」
第5章 「しばらくどこかに消えたいね」
第6章 「自分にぴったりの場所を僕は探している」
第7章 「でも僕はときどきしくじってしまうんだ」
第8章 「答えがあることはわかっているんだ」
第9章 「この世界が僕に示せるものなど何ひとつない」
第10章「美しいものが死んでいくのを見るのはとてもつらい」
エピローグ
「もし僕らが真剣に考え、望み、祈るなら、それは実現するかもしれないよ」