2009年4月21日

The Art of Travel

もう10年以上前、東北で営業の仕事をしていた頃。その頃は、まだ秋田から仙台まで高速道路がつながってはいませんでした。担当していた秋田から家のある仙台に帰るには、一度横手で高速を降りて、山道を走り峠を越えて、岩手の北上で再び高速にのらなければなりませんでした。
 
秋田からの帰り道、ちょうど夕食の時間にそこを走ることが多く、峠に入ると食堂もなくなるので、峠の手前にある「でめきん食堂」というところによく立ち寄りました。
 
そこは、トラックがとめられる大きな駐車場がある昔ながらの地方によくあるドライブイン。店員やお客さんの数に不釣り合いな広い店内には不揃いのテーブルやイス、ぼろぼろになったスポーツ新聞やマンガ雑誌が雑然と置いてあるそんな食堂でした。
 
夜の8時頃、薄暗い店内でそれぞれ離れた席に座る2、3人の客が黙々とカツ丼やしょうが焼き定食を食べている姿は、旅の孤独を感じさせるのに十分でした。峠の途中にあるため、周りに人が住む気配がいっさい感じられず、そのことも孤独な雰囲気をさらに強めていました。
 
「旅する哲学」は、さまざまな文学者や画家、詩人の視点を借りて、旅で見えることの意味を語ってくれます。私にとっては今まで考えてきた、旅の意味を明確に分かりやすく説明してくれる本でした。例えば、9章ある中の2章目では、画家エドワードホッパーと詩人ボードレールの視点から旅の意味を教えてくれます。エドワードホッパーは、車でアメリカ中を旅し、そこで出会ったガソリンスタンドやモーテル、自動販売食堂に漂う孤独な風景の中に詩情を見つけ描いてきました。
 
孤独は心を空白にし、自分にとって大切な感情や考えに接触するところまで引き返してくれるとこの本に書かれています。ホッパーの絵は旅の孤独を客観的に提示することでそのことを教えてくれます。
 
もう一度ここで書かれている旅人の視点ででめきん食堂のことを思い返してみると、そういえば、ひとりカツ丼を食べている時間は、うら寂しい気分ではありましたが、そこでしみじみといろいろなことを考えているのは嫌いではなかったことを思い出します。
 
今では高速道路も秋田から仙台まで繋がって降りずに行くことができます。でめきん食堂は、まだあるのかなあ?
 

 

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