見よ、旅人よ
ひとり旅には、必ず本とiPod、そしてトラベラーズノートを持っていきます。一人っきりの宿の部屋、iPodにつないだ小さい
スピーカーから静かに流れる音楽を聴きながら本を読んだり、ノートに何かを書いたり貼ったりする時間はひとり旅ならではの楽しい時間の過ごし方。
自由なひとり旅では、自分のペースで時間を過ごすことができるのがなによりの楽しみです。だから、出来る限りテレビとか新聞を見たりしない。それより、ゆっくり本を読んでいたいもの。松本へ旅した時に読んだ本は、旅の宿から世界中へ連れて行ってくれました。
長田弘著「見よ、旅人よ」は、詩人である著者が1970年代にモスクワ~ワルシャワ、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアなど世界を歩いた紀行文。
冷戦時代のソ連や、フランコ政権下のスペインの重苦しい様子、独立間もないシンガポール人の国家に対する考えなど、その時代の空気をリアルに感じさせてくれるのは、詩人の鋭い視線と、旅で見たことを前向きに受け入れ、伝えようとする気持ちがあるからなのでしょうか。
ところどころに彼の旅に対する姿勢についての記述があります。いくつか引用させて頂きます。
「分厚い地図帳をバサリと助手席に抛りこみ、いつものようにエンジンのキーをカチリとまわす。そんなふうになにげなくはじめる旅が好きだ。予約する思想がきらいである。予めなにをするか決めて身体を動かすということが、きらいだ」
「そのほうが楽だと知った道をゆくのは、わたしの好みではない。旅から未知への緊張を引いたら何も残りはしないという思いが、タイヤ・チェーンの用意がないという不安を消した」
楽でない道を進んだ後、雪道に車を滑らせて進めなくなり、引き返した先で、作者は誰も客の居ないが気持ちの良いホテルを見付けました。
「明日は、いったいどこにわたしは泊まることになるのか。しかしいまは、ともかくも一杯の熱いコーヒーがあれば、それでよかった」
素敵な文章です。