2009年6月30日

場所はいつも旅先だった。

一人旅の醍醐味は、人との出会いのきっかけが多いことだと思います。例えば、ずっと前の話ですが、バイクでツーリングしていた時のこと...。
  
その日に泊まったのは、丘のふもとにあるレストランが経営する小さなゲストハウスでした。レストランの2階のロフトのような場所に、一人ずつ寝るスペースが仕切られただけの安い宿です。
 
夕食をとるため、2階からレストランに降りると、その日一人で泊まるのは、私ともう一人だけだったため、一つのテーブルで相席となりました。失礼しますと声をかけてきたのは、同じ年頃の女性。一人旅の食事の時間が一気に楽しいものになりました。
 
食事が終わりかけた頃、店主が近くに温泉があることを教えてくれました。話の流れで、一緒に行こうということになりました。私はバイクで、その女性は車で旅をしていたので、必然的に彼女の車の助手席に乗せてもらいました。
 
小学校の先生をしているということを少し照れながら教えてくれました。先生というのは、なかなか気が抜けない仕事なんですよ、なんてことを話しながら、ドライブを楽しみました。一人旅の途中、思いがけず訪れた楽しいひとときは、旅をとても印象深いものにしてくれました。
 
こんな風に文章を書きたいな。この本を読んで最初に思ったのはそんなことでした。Cow Books代表で、暮しの手帖の編集長の松浦弥太郎氏による旅をテーマにした文章を集めた本です。
 
この本のなかでの著者は、軽快に淡々と自由な旅をすることで、様々な出会いをオープンに受け入れてきます。旅先で素敵なカフェや本屋さんを見つけたら、まるで近所の行きつけの店のように通ってしまう。そこでスタッフと交わされるさり気ない触れ合いや会話を大切にすることで、旅と人生の奥行きが広がっていくことを教えてくれます。
 
旅先での人との出会いを大切にしながら、ひとりぼっちの孤独も尊重する。素敵な女性、気持ちの通じ合える友人、尊敬できる人生の先輩達との触れ合い。そして、ひとり自分と向かい合う時間。それぞれが良いバランスで、旅を彩っていく。そんな旅/人生が理想であるのは、誰にとっても同じだと思います。18歳の時に、一人でアメリカに旅立って以来、彼の旅のスタイルは、そこで暮らすように過ごすことなのかもしれません。
 
彼の文章も旅のスタイルと同じように軽快でオープン。日曜日の午後、オープンカフェでカフェオレを飲みながら、足を思いっきり投げ出して読むのにうってつけの本です。
  
ちなみに冒頭の話、その後何事もなく別れました。そんな一瞬のときめきもまた、一人旅ならではの楽しみ。最近はそんなこともなくなりましたが...。