2009年9月 7日

百年の孤独 G・ガルシア・マルケス


 
冒頭のシーン。年代は明らかにされていませんが、きっと200年くらい前、南米の奥地に静かに佇む村マコンド。開拓されたばかりの小さな村に、毎年3月になるとジプシーの一団がやってきます。
 
彼らは村のはずれにテントを建てると、笛や太鼓をにぎやかに鳴らし、持ち込んできた珍しい物を村人たちに見せてお金をとる。初めて見る磁石、望遠鏡、氷。ジプシーは、それらで摩訶不思議な演出をし、村人達は、驚き魅せられていく。そして、村の代表的な人物はそれらに取り憑かれ高いお金を支払って手に入れ、家の中で妖しい実験を繰り広げていく。そんな過程が緻密な描写とともに綴られています。
 
ここで、私は幻想的で混沌とした不思議な村マコンドに迷い込んだ旅人のような気分になり、同時にその世界観に引き込まれてしまいました。この感じは、インドのヒンドゥー教聖地、バラナシを歩いた時の記憶を思い出させてくれます。
 
入り組んだ迷路のような狭い路地。道の真ん中で、人々の通行の邪魔をする牛。スパイスや穀物を売る店から漂う匂い。生地屋に並ぶサリー用の派手な色の生地。笛や太鼓を鳴らしながら売り歩く人。大きなヴォリュームで流れるインド映画音楽。さまざまな場所から手を差し伸べる物乞い。白く顔を塗ったヒンドゥー教の修行僧サドゥー。
 
歩いた瞬間、その妖しく混沌とした街の圧倒的な迫力にすっかり魅せられました。今までの自分の日常とはかけ離れた幻想的で非現実的な世界を目の当たりにしたような気分になりました。
 
でも、それは紛れもなく現実の世界なのです。そこには、たくさんの人々が生き、私たちと同じように日々悩んだり、喜んだり、悲しんだりしながら毎日の生活を送っている。ずっと昔から、そして、これからも。
 
「百年の孤独」は、マコンドという物語上の村に生きたブエンディア家の盛衰を百年にわたって描かれた小説です。非現実的で神話のような奇怪なエピソードととも伝えられる一族の放蕩と混乱の日々。エキゾチックで情熱的な南米のイメージもあって、ファンタジックなストーリーが不思議とリアリティを持って迫ってきます。
 
この物語のなかで、生まれ、そして死んでいったブエンディア家の人々。彼らと同じように、私たちもまた、日々悩み、喜び、悲しんでいる。世界中に住む68億の人々と同じように。なんだか、そんな壮大なことに気付かされてくれる不思議な魅力に満ちた本です。