2009年11月 9日

たましいの場所


 
よくよく考えてみると、子供の頃から本気で何かになりたいと思ったことがないのかもしれません。幼少時はパイロットになりたいと言っていたけど、それは本気でそう思っていたのではなく、何かそういうものを用意しておかないと、大人に聞かれた時に面倒だから、そういうことにしておいたような気がします。
 
思春期になって、なんとなく文章や絵で何かを表現するような仕事ができればなんて考えていたけれど、ちゃんと作品を作っていたりそのための勉強をなにもしていなかったので、本気ではなかったのだと思います。学生時代に仲間とバンドをやるようになり、曲を作ったり、演奏したりすることで表現をすることの楽しさを知りましたが、歌も楽器もあまり上手くない方だったので、最初からプロになんてなれないと考えていました。
 
そして、会社に入って仕事を始めましたが、いつもどこかで何かを表現するようなことがしたいと思っていたような気がします。
 
「たましいの場所」の著者早川義夫氏は、元ジャックスのボーカリスト。18歳から21歳までミュージシャンとして活動をしていましたが、突然音楽業界から退き本屋さんを開きます。24年間普通の本屋さんとして、音楽とは離れた暮らしをした後、45歳に再び歌手を始めます。この本は著者が再び歌を作り、人前で歌い始めた時のことを中心に書かれた日記のようなエッセー。
 
「恋をしたいから恋をするのではない。写真を撮りたいから写真を撮るのではない。写したいものがあるから撮るのだ。写したいという気持ちを撮るのだ。歌いたいから歌うのではない。歌いたいことがあるのから歌うのだ。自分を歌うのだ。」
 
こんな風に再び歌い始めたときの心情を綴っています。
 
体の中から湧いて出てくる事、言葉だけではうまく表現できないほんとうの事、自分のなかの不完全で欠けている事。そんな歌う事を見つけて、いざ人前歌う時うまく歌えるかどうか不安で震えて逃げ出したくなる。そして、技術とか才能、上手い下手ではなく、その人の本質から生まれた美しいものが感動を与える事ができるんだと納得して、やり遂げる。不安に揺れ動きながらも純粋に表現をすることに向かう彼の姿勢は、そのまま生きていく姿勢としても読み取ることができます。
 
彼が指圧師のマッサージに感動した時、その訳を考えてこう書いています。

「先生は僕の足を踏みながら、歌を歌っていたのかもしれない。芸術は感動するものである。感動しないものは芸術ではない。それは、音楽も、仕事も、人間も、恋愛も、何でもそうだ。人を感動させて、はじめてそのものになれるのだ。感動しないものは、なにものでもない。」
 
歌うように書かれた文章の中には、心に響いて感動する歌が溢れています。きっとどんな仕事や生活をしていても、表現をすることで人に感動を与えることができるのだと思います。でも、それは自分の本質の中を飾らずにさらけ出すことでしか出来ないことをこの本は教えてくれます。