どっこいしょねんど
私が育った東京の下町では、学校前の公園に紙芝居屋さんや手品売り、砂絵など、子供向けのモノ売りがよく来ていました。
おじさんが自転車の荷台に木箱を積んで公園にやって来ると、木箱を手際良く組み立てて、枠を作り、紙芝居をはじめます。それが終わると、ミルクせんべい、水飴や黒蜜、ペースト状の杏などを使って、花や動物の形に細工して売ってくれる。どれも20円~30円くらいで、50円あればけっこう楽しく過ごせました。
この紙芝居屋さんも好きでしたが、たまにふらりとやって来る「どっこいしょねんど」がお気に入りでした(この名称が正しいのかどうかよく分かりませんが)。要は、粘土とその粘土用の素焼きのレンガのような型を売っているのです。
おじさんが公園の広場に敷物を広げ、そこに恐竜や動物、乗り物、ウルトラマンなど大小たくさんの種類の型を並べて、粘土をこねて売り始めます。型は、小さいもので20~30円、大きいものだと2000円くらいまであったような気がします。そして、粘土が一握り10円、それつける粉状のラメのような色も小さく折りたたんだ新聞紙に包まれて売られていました。
私たちは型と粘土、色を買って公園で作品を作ります。粘土を型に押し込んでひっくり返すと作品ができます。さらに指に水を付けて、その表面をきれいに修正し、最後に色の粉を付けて出来上がり。
それが出来上がると、おじさんのところに持って行きます。その作品の出来によって、おじさんは点数を付け、その点数がもらえます。その点数を貯めると、新たな型がもらえるというシステム。高い点数の作品は、おじさんの横の陳列スペースに並べられて、低い点数の作品はそのまま崩されて売物の粘土に混ぜられてしまいます。点数は大きい型だったり、色をたくさん使った方が高く、つまりお金をかけないと高得点は得られない訳です。
なんであんなに熱中したのか、とても不思議なのですが、みんなで必死になって高得点を狙っていたし、おじさんの横の陳列スペースに並んだりすると純粋に嬉しかったのを覚えています。一番大きな型はマンモスで、みんなそれをゲットするために点数を貯めているのですが、いつももう少しというところまで点数が貯まると、おじさんは来なくなってしまうのでした。
そういえば、トラベラーズノートのリフィルの表紙にシールを貼ったり、スタンプを押したりするときの気分って、どっこいしょねんどを作っていた時の気分に似ているかもしれないなあ。