2011年5月18日

手作りガイドブック


 
映画「エリザベスタウン」終盤のシーン。
 
ヒロインが思いを寄せている主人公の男は、しばらく離れていた自分の家に戻ることを決める。車で旅立つ男に向けて、女は地図やガイドを貼り付けたスクラップ帳とCDを渡します。スクラップ帳には、旅のルートを辿った地図、お勧めの場所のリーフレットやポラロイド写真が貼り付けられていて、さらに思い入れたっぷりのコメントが手書きで添えられています。CDをセットすると、ルートにあわせて彼女が選曲した音楽が流れてきます。
 
男はCDを聴きながら車を運転し、スクラップ帳のガイドにそって旅をすすめます。メンフィスでは、彼女が世界一とすすめるチリビーンズを食べ、プレスリーがレコーディングしたサン・スタジオやキング牧師が暗殺されたモーテルを訪ねます。
 
仕事で大きな失敗をし、さらに父親を失い傷付いていた心は、アメリカの原点をめぐる旅と音楽によって少しずつ癒されていきます。カーステレオからトム・ペティーの弾き語りの歌が流れるなか、まっすぐ続くアメリカの田舎道を進んでいく。のどかな風景を眺めながら、過去を振り返り、見つめ直すことで本来の自分を取り戻していく。そして、旅の最後に、自分にとってほんとうに大切なものを見つけます。
 
音楽マニアのキャメロン・クロウ監督がきっと楽しんで作ったであろうその映像は、旅と音楽とノートがもたらす理想的なシーンを
演出しています(映画ではノートではなくて、いかにもアメリカ風のバインダーですが)。この映画みたいに、ノートで誰か大切な人のために、世界にたった1冊しかないガイドブックを作ってみるのもいいですね。個人的な思い入れや主観たっぷりのパーソナルなお勧めスポットをノートに綴る。他の人には特別印象的でなくても、その人にとっては大切な思い出だったり、深い意味があったりする場所。 作る人はそのノートを手にして旅をする人のことを思い、旅人はそこに書かれた気持ちを想像しながら旅をする。そして旅をしながら、間接的にその人とコミュニケートしていく。
 
そんなことを考えてみると、トラベラーズノートに旅の記録を書くということは、未来の自分のためにガイドブックを作るということなのかもしれません。例えば10年後、書いた内容をすっかり忘れてしまった頃、そのガイドブックにそって旅をしてみる。書いた頃とは変わってしまった風景と自分自身。ふと、ノートにある言葉と吹き抜ける風の匂いがその時と変わらない自分の気持ちを思い出させてくれる。
 
ノートによって過去の自分とコミュニケートすることで、旅はきっと大切なことを教えてくれるはずです。
 

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