2011年8月 3日

William Eggleston's Guide


 
ある古本屋さんで、ショーケースのなかに飾られた1冊の写真集をしばらく眺めていたら、店員さんが中から取り出して見せてくれました。価格を見るとびっくり。トラベラーズノートが15冊ほど買える値段です。聞くと、サイン入りの貴重本とのことで、少し緊張しながらゆっくりとページをめくり拝見させていただきました。
 
その写真集「William Eggleston's Guide」は、1976年に作者がニューヨーク近代美術館で史上初のカラー写真の個展を行った際の作品集。当時のアメリカの日常風景がリアルに映し出された淡い色合いの写真は、その時代を知らない私にも郷愁と憧れを感じさせてくれました。
 
1969年生まれの私にとって、少し上の世代とは違って、アメリカは単純に憧れの存在ではありませんでした。自我が目覚めた10代初めのころは、アメリカと日本の貿易不均衡が取り沙汰された時代。アメリカ製品をもっと買いましょうというキャンペーンが繰り広げられるなかで、買うものなんてないよな〜と言っていた大人たちの言葉が印象的でした。
 
音楽では、ブルース・スプリングスティーンのボーン・イン・ザ・U.S.Aやビリー・ジョエルのナイロン・カーテンがヒットしていて、工業都市の衰退やベトナム戦争の傷が歌われていました(ボーン・イン・ザ・U.S.A.はアメリカ賛美の曲ではなく、ベトナム帰還兵の帰国後の困難と彼らのアメリカに対する複雑なやるせない気持をうたった歌です)。日本は平和で豊か、技術も世界で最も優れていて、アメリカのシェアを奪いながらまだまだ経済発展が進んでいく。そんなトーンに包まれながらバブルへ向かっていった時代です。
 
もちろんアメリカの映画や音楽で好きなモノはたくさんあったし、いつか行きたい憧れの国ではあったけど、ヨーロッパやアジアの他の国と比べて特別強い憧れがあったわけではありません。
 
あれから世界はさらに変わりました。日本の技術力は、アジア各国によって脅かされ、私たちの身の回りには、当時よりもずっと多くのアメリカブランドのモノが溢れています。
 
そんな時代に、1970年代のアメリカの日常風景の写真を眺め、その世界に憧れている自分がいます。きっと、そこにフロンティアスピリットと自由を感じるからなのかもしれません。そしてそれこそ、いつの時代も変わらないアメリカの最大の魅力であり、今の私たちに必要なことなのだと気付きました。
 

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