チャルカと、アジ紙の思い出
トラベラーズファクトリーで、大阪の雑貨店「チャルカ」さんのコーナーがはじまりました。東欧からやってきた、ヴィンテージの切手やチケット、時代を経て黄ばんだ伝票の束や古い本から切り取られたページなど、たくさんの紙ものが並んでいるのを見ると、異国の蚤の市を訪れたようで、わくわくしてきます。チャルカさんは、これらの古くて味のある紙をアジ紙と呼ぶことで、あらたな価値と魅力があることを教えてくれました。
そんなわけで、自分にとってのアジ紙を探してみようと、引き出しの奥を探すと、わら半紙のようなラフな紙に走り書きの文字が記されている小さな紙片を見つけました。これはもう20年以上前の学生時代にトルコを旅した時のもの。ざっくりした質感の紙を触り、眺めているとその時の情景が鮮やかに浮かんできます。
地中海沿岸の街、アンタルヤ。観光名所から離れ、旅人がほとんど訪れることのない寂しい住宅街を歩いている時、どこにでもあるような小さな公園を見つけました。歩き疲れていたので、ベンチに座って少し休むことにしました。すると、2歳か3歳くらいの女の子とその父親らしき男が手をつないでやってきました。2人はブランコのところまで来ると、父親が抱きかかえながら娘を乗せ、やさしく背中を押しながらブランコを揺らしました。夕暮れ時だったせいか、父親の姿にはどこか寂しげで哀愁を感じ、一方、娘は子供ながらに、西洋と東洋が混ざった中東独特の魅力を感じました。ぼくは、そんな2人をぼんやりと眺めていました。
しばらくすると、父親がぼくの手に持っているカメラに気付き、娘を撮るように促してきました。その可愛い姿を写真に撮りたいと思っていたぼくは、喜んでシャッターを切りました。撮影が終ると、彼はポケットからメモ帳を取り出し、名前とアドレスをささっと書き留め、それを切り離して、ぼくに渡しました。言葉は一切通じませんでしたが、写真ができたらそこに送ってほしいということを言っているのは、簡単に伝わりました。
ぼくは分かったと伝えながら、メモをポケットに入れ、再び街を歩きました。日本に帰り、その判別しずらい文字をなんとか封筒に書き写し、エアメールで写真を送りました。でも、それがちゃんとその2人の手元まで届いたのかどうかは分かりません。正直に言うと、アンタルヤはあまり印象に残っておらず、どんなものを見たのか、食べたのかは、ほとんど覚えていませんが、この紙片を手にするだけで、その時のシーンが蘇ってきます。さらに、あれから20年以上の月日が経った今、すっかり大人になったであろう女の子がどんな女性になっているのか、なんて想像をしてみたりします。
一枚の紙の質感やそこにあらわれている文字がさまざまな記憶を呼び覚まし、想像力を掻き立ててくれる。これこそ、チャルカさんが言うアジ紙の魅力なんですね。日々の記録を綴っているトラベラーズノートも、その後時間が経過することによって、アジ紙へと育って行くことを想像すると書くことが楽しくなります。トラベラーズファクトリーに並んでいるたくさんのチャルカさんのアジ紙を眺めているとわくわくするのは、その奥にある歴史やひとびとの暮らしを想像させてくれるからなのでしょうね。
ホームページにアップしましたが、20日には、コラボリフィールの発売とあわせて、シーリングワックスなどを使ったカード作りのイベントがあります。その日は、チャルカの店主久保さんも来てくれますので、ぜひ、たくさんのアジ紙と出会ったときのことなどを聞いてみてください。さらに、その紙が愛おしくなるはずです。
また、コラボリフィールは、チャルカさんのオリジナル商品とあわせて、4月22日よりオンラインショップでも販売する予定です。遠方の方々やお店に来られない方は、こちらをご利用ください。欠品していたスターエディション商品も仕上がってきていますので、ぜひ、遊びに来てください。