2013年8月19日

「路上」の旅

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僕がジャック・ケルアックの小説「路上/オン・ザ・ロード」をはじめて読んだのは、タイを一人で旅していた時。大学生の頃のことです。
 
ひとり旅の時には、気軽にさらりと読める本と、読むのにちょっとしんどい本の両方を持って行きますが、「路上」はしんどい方。
旅の間、何度か読んでみたけど没頭できず、つい途中で他の本を手に取ってしまったりして手付かずでしたが、いよいよ未読の本がこれだけになってから、やっと本格的に読みはじめました。
 
ストーリーらしいストーリーもなく、ただアメリカ中を旅して、人と出会い、別れて、また出会うことをだらだらと繰り返す。新鮮な事柄に溢れていた現実の旅の途中で読む本としてはちょっと退屈で、何度も途中で読むのを止めそうになったのを覚えています。
でも、ゲストハウスのカフェで読んでいたら旅慣れた様子のアメリカ人バックパッカーの女の子がその本に気付いて、日本語に訳された「On The Road」を手に取り、興味深そうに眺めた後に、「I love this book」と言って、同じ価値観を持つ仲間に見せるような笑顔を見せてくれました。そんなことが最後まで読み切る動機だったような気もします。
 
そのまま本棚で眠っていた小説を再び読もうと思ったのは、今から8年前のトラベラーズノート発売前のこと。発売にあわせて開設するホームページを企画しているとき、ノートと本が一緒に写っている写真が欲しいと思って、その本に「路上」が思い浮かんだのです。で、もう一度読んでみることにしました。すると、前に読んだ時には退屈だと思っていた旅の物語から、疾走感や自由、移動を求める焦燥感を感じ取り、その面白さを少しだけ理解できたような気になりました。
 
その後はふと思い立つと手に取るような本になり、さらに新訳が出ると、また最初から読み、作者の路上の旅を追体験しました。そして読む度に、ぼくに旅の意味や面白さを教えてくれました。
 
そんな本だったので、映画になると聞いた時には、どんな風に映像化されるのかとても興味があったし、映画配給会社からポスターとチラシをお店に置いてほしいという電話があった時には、それだけじゃなくてノートも作らせてください、とこちらからお願いし、今回のコラボレーションが実現しました。
 
映画は原作への愛情が感じられ、とても丁寧に作られた作品で、またあらたな路上の旅を追体験することができました。印象的だったのが、旅のなかで主人公サルが鉛筆で小さなメモ帳に、必死に「路上での旅」を書き留める場面。これは、映画だからこそ描くことができたシーンで、何度も出てくるこのシーンこそがケルアックの表現者としての真摯な姿勢を物語っているような気がしました。そして、同時にぼくらが作っている旅を書き留めるためのノートの存在価値を力強く示し、ぼくらに確信を与えてくれているような気がしました。
 
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