想像の未来と過去
1968年公開の映画『2001年宇宙の旅』のワンシーン。『美しく青きドナウ』が流れるなか、地球を飛び立ったパンナムの宇宙船が宇宙ステーションに向かって行く。画面が船内に変わると、パンナムのロゴが入ったシューズを履いたCAが無重力で歩きずらそうにシートが並ぶ客室を進んで、宙に浮かぶペンを手にして、その持ち主である眠っている客のポケットに戻す。そして再び青い地球を背景に映しながら宇宙船はゆっくり宇宙ステーションの中に入っていく。
1968年に描かれた2001年の風景は、今見ても美しく未来を感じさせてくれるのと同時に、どこか懐かしさをも感じてしまうのは、当時はアメリカのナショナル・フラッグ・キャリアだったパンナムが2001年には既に廃業しているのを知ってしまっているからでしょうか。それから14年経った2015年になった今も宇宙ステーションと地球を結ぶ民間航路は確立されていませんし、月には人が住んではいません。
また、1982年公開の『ブレードランナー』で描かれた、妖しげで混沌とした未来都市と化した2019年のロサンゼルスでは、強力わかもとの巨大な電光掲示板広告の影にパンナムのロゴを見つけることができます。ここで描かれている未来都市は、猥雑で退廃的なトーンに包まれているけど、不思議な美しさを感じます。あと4年でロサンゼルスがこんな風になってしまうのは考えにくいですが、この映画の街に描かれたような都市があったら、ちょっと怖いけど、旅をしてみたいです。
『2001年宇宙の旅』や『ブレードランナー』が描いた未来となった現在、2015年に作られたパンナムのノートを手にして、これらの映画を見るときっとまた違った感慨があるのかもしれません。1968年や1982年に思い描いた未来。そして、その当時から見たら未来となった2015年に思い描く1960年代の飛行機の旅。すべての想像は、不完全で間違いもあるけど想像こそ、未来へ向かう力であり、あたらしい何かを生み出すきっかけであるような気がします。
『2001年宇宙の旅』より
『ブレードランナー』より