街からはじめて、旅へ
トラベラーズファクトリーで販売するための本を注文すると、たいていそのうちの何冊かは品切れや絶版で、だいたい一割くらいは入ってきません。前に絶版ですと言われているものは避けて注文しているんだけど、それでも前にはあった本が次に頼むとなくなってしまうことも多い。
自分もノートやシールなど印刷物を作って売ることをなりわいにしているので、ロットや在庫などの関係で、作ることができない理由はよく分かるけど、すばらしい本がそのまま埋もれてしまうのは、なんだかもったいないし、寂しいなあと思ったりもします。電子書籍はその解決策として有効ではありますが、やっぱり、お気に入りの本は一枚ずつめくって読みたいし、本棚にも入れておきたい。まあ、でもそんな本を探して古本屋巡りをするのも楽しかったりもします。
先日、恵文社一乗寺店に行った時に見つけたのはその多くが既に絶版になっている片岡義男氏著の初期エッセイ集の復刻版。1974年に刊行された本を、装丁はもちろん、ちょと読みにくそうな小さい活字のフォントもそのままで復刻していて、新しい本なのに当時の空気を感じ、思わず手に取ってしまいました。独特の軽快な文体で語られる、オールドアメリカの文化への憧憬を感じさせるエピソードは、まさに今の時代に再び見直されてるようなことでもあり、だからこそ復刻をしたんだと思いますが、とても興味深く読むことができました。
「もっともアメリカ的な場所、ないしは光景をいくつかあげるとするならば、ソーダ・ファウンテンは必ずそのなかに入る。ソーダ・ファウンテンのストゥールにすわって、ドーナッツにコーヒーやコークをたのんだりすると、うわぁ、アメリカに来たなぁ、異国へ来たなぁ、という感動にも似た独特の気分が、きっと味わえるはずだ。」
こんな文章を読めば、そのソーダ・ファウンテンとやらに行って、コークを頼んでみたくなります。まして情報が今よりも少なくて、インターネットなんてない70年代の日本人にとってはなおさらですよね。
ここで語られているオールドアメリカのライフスタイルに道具や音楽への考察には単なるノスタルジックな感傷だけでなく、今を生きるぼくらにとって大切なアイデアがたくさん詰まっているような気がします。そしてなにより、今のぼくらにも旅を喚起させてくれる魅力的な言葉に満ちあふれているのです。
そんなわけで、トラベラーズファクトリーにも並べてみようと、復刊した片岡義男氏の初期の作品3冊を注文してみたら無事届きました。評論集『10セントの意識革命』なんて、今ではあまり見ることがないビニール製のカバーが掛かっていて、文字の大きさも前述の本よりさらに小さく、びっしり詰まったいてとても読みずらそうなんだけど、そんな甘やかさない感じが当時の本らしくていいなと思ったりもします。