東海道中膝栗毛
たまたま古本屋で見つけた十返舎一九の生涯を描いた歴史小説『そろそろ旅に』を読んだらこれがとても面白くて、ならばとその代表作の『東海道中膝栗毛』を手にとってみました。ご存知、やじさん、きたさんの旅を記した滑稽本の代表作です。
江戸時代に書かれた旧仮名遣いの文章は、すらすらと読み進めるのは難しいけど、注釈が丁寧に記され、さらに文章の多くはやじさん、きたさんの掛け合いの話言葉なので、慣れると古典落語を聞いているようで、なんとなく意味も分かり頭に入っていきます。
旅籠で寝ているうちに有り金を全部取られたり、金がなくて泊まった木賃宿で夜這いをしようとして失敗したり、金が入れば遊郭で豪遊したり、騙そうとして騙され、粋がってぼったくられ、古典ではありますが、内容は駄洒落に下ネタ、くだらない冗談たっぷりのドタバタの喜劇。さらに、江戸時代の旅の模様や旅先の風景、庶民の生活を覗くのも楽しくて、ページが進むにつれて、どんどんその世界に引き込まれていきます。ちなみに膝栗毛とは、膝を栗毛の馬の代わりにすることで、徒歩で旅をすることを意味します。
新幹線を使えば数時間でたどり着いてしまう道程を何日もかけてゆっくり歩きながら進み、途中で土地の酒や肴を食し(これがまた美味しそう)おもしろおかしく旅をする姿は、現代の旅よりもよっぽど自由で豊か。江戸時代の旅人がうらやましくなります。
『そろそろ旅に』によると十返舎一九は、静岡の生家を出て、慕っていた武家を訪ねて大阪まで旅をし、その後、材木問屋に婿入りし、離縁して江戸に流れて洒落本や浮世絵の版元に居候しながら手伝いをするうちに、作家になったそうです。文筆のみならず自ら挿絵を描き、版下の清書もできたため、版元から重宝され、多くの本を出版し、日本で、副業をせずに生活したはじめての作家となりました。興味のおもむくままに様々な土地で暮らし、多くの作品を残し、最終的には4人の妻を娶った彼の生き方もまた、自由でクリエイティブな生粋のトラベラーであったようです。
『東海道中膝栗毛』は、今はまだ上巻の途中で、旅は江戸を出て静岡の大井川を過ぎたあたりなのですが、当時の旅のようにゆっくりと読み進めていきたいと思います。旅に出たいなあ。