木工職人たちがやってきた
ぼくの育った街には、木場の貯木場に通じる川が通っていたからか、材木加工場がいくつかあった。そこには、さまざまなサイズにカットされた材木がたくさん積まれていて、その上に登って遊んでは、危ないとよく怒られた。それでも大人たちの目を逃れて、指にトゲが刺さったり、おがくずにまみれたりしながら、木に触れて遊んでいた。そこには、材木の切れ端がたくさん転がっていて声をかければ、自由に持って行くことができた。
その影響がどうかは分からないけど、小さい頃から、何かを作ったりするのは好きで、夏休みの自由工作では、もらってきた木の板にたくさん並べて釘を打ち、ビー玉を転がして遊ぶパチンコのようなものを作ったり、ゆがんだ形の本棚を作ったりした。ぼくが中学に入る頃になると、材木加工場は急激に減っていき、マンションや大型スーパーに変わっていった。今では自転車でのそのあたりを走っても、その面影すらも見つけられない。
夏に箱根の畑宿にある、寄木職人、るちゑの清水さんの工房を訪ねた時、積まれた材木やおがくずの匂いが、その頃の記憶を呼び起こしなんとも言えない懐かしい気分になった。色の違う木を組み合わせることで生まれる独特の美しい文様が特徴の寄木細工は、寸法出しから、カット、はり合わせまで繊細な職人の技を必要とする。いつもはこの工房で寄木の木工品を作る清水さんをはじめ、清水寛さん、加生さん、角田さんの4人の小田原・箱根で活躍する木工職人さんたちが、トラベラーズファクトリーにやってきてイベントを開催してくれた。
ぼくも、寄木のチャームやカリンバを作ったんだけど、あらかじめカットしてある木のパーツを組み合わせて、形になっていくのは、夏休みの自由工作の時のわくわくした感情を思い出させてくれる楽しい時間だった。木の温かくてやさしい手触りや自然の香りは、触っているだけで気持ちがいいし、それがこれからどんな風に変化していくのか想像できるものいい。
イベントでは、BANDA Luthierとしてライブも開催してくれて、彼らの作品同様、職人気質あふれた演奏と、思わず笑顔になれるユーモアや温かさに溢れた、素敵な時間でした。音楽でも木工でも、何かを作るってやっぱりいいですね。上の写真は、るちゑの清水さんがトラベラーズノートのために作ってくれた寄木チャームです。もともと寄木細工は、江戸時代に東海道を往来する旅人のお土産品として発展していったということで、旅人のノートにもぴったり。寄木チャームはトラベラーズファクトリーで販売中です。