2016年9月12日

本屋の心意気

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「本というのはふしぎな力をもっています。その周りに人を集めるひそかな力が本にはあり、本のもつそうした力がはぐくんできた場所の一つが街の本屋です。通りのそこにある実際の場所。それでいてそこがめいめいの記憶の入口になって、いつか、それぞれの心の中にのこってゆくような場所。いつの時代にも本屋を街の独自の場所としてきたものは、本屋の心意気というべきものです」
 
weekend booksさんの出張コーナーで並ぶ長田弘氏の『本という不思議』を手にとって読んでみたら、こんな文章に巡りあった。
 
僕の住んでいた町にも小さな本屋があって、週に一度は、そこに通って、ただぼんやりと本を眺めて探すのが楽しかった。少年ジャンプを買うついでに、文庫本コーナーで星新一のショートショートを買い、さらに筒井康隆や北杜夫の本を手に取るようになって僕の読書の幅は少しずつ広がっていった。もうなくなってしまったあの本屋の紙とインキの匂いは、今でも鮮明に思い出すことができる。
 
街の本屋が少なくなってしまっているようだ。今では少年ジャンプは、コンビニで買えるから、ついでに買うのはお菓子とか飲み物になっているのかもしれない。目当ての本だって、ネットで簡単に手に入れることもできる。 だけど、なんの目的もなく本屋に入って、ぼんやりと背表紙を追っていくのは、他では得られない楽しさがある。その時、店主の心意気みたいなものが感じられると思わず胸が高鳴ってくる。共感したり、意外性があったり、探しやすかったり、その並べ方やセレクトは様々でも、いい本棚は、それだけで美しく、オーラを放っている。
 
weekend booksの高松さんもまた、本屋の心意気を持った店主のひとり。今回もイベントのために時間をかけて、トラベラーズファクトリーに来てくれる方のことを想いながら本を選んでくれました。だから、その本がトラベラーズファクトリーに並んだ時には、それぞれの本たちが小さな火を灯し、それが固まりになって美しい光を放って空間を照らしているように感じたし、実際に足を運んでくれたお客様が、ずっと探していた本を見つけたと喜んでくれるシーンもあった。
  
僕自身も高松さんの本のセレクトを毎年楽しみにしていて、これまでたくさんの心に残る本に出会うことができた。さて、今年はどの本を読んでみようかな。
 
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