ボーダー&ミュージック
そういえば、僕の音楽の原体験は、コンピューターミュージックだった。小学生の頃、友達の家に遊びに行った時、彼のお兄さんのコレクションの中からYMOのファーストアルバムを取り出して聴かせてくれた。お小遣いの少ない小学生にとっては憧れだったインベーダーゲームの効果音のような音に衝撃を受けて耳を傾けると、シンセサイザーが奏でる高揚するメロディーにデジタル処理されたドラムが絡んでいく。今まで聴いていた歌謡曲とは全く違って、大人の世界を知ったような気になってわくわくした。早速カセットテープに録音してもらうと、それを聴きたくて、親にねだってラジカセを買ってもらった。そこから、僕の音楽生活は始まったのだ。
YMOは、音楽はもちろん、ジャケットも素晴らしくて、シュールでシャレの効いた写真やイラストに、独特なフォントや温泉マークを模したマークなどを配したアートワークは、今見てもかっこいい。僕は、カセットテープのレーベルに、それらのフォントを真似てタイトルや曲名を書き写していたんだけど、幼いながらも、そんなことから意識せずデザインとは何かを学んでいたのかもしれない。その後、イギリスやアメリカのシンプルなロックミュージックに傾倒していくんだけど、デジタルな音は今でもけっこう好きだったりする。
だけど、こんなコンピューターミュージックは初めての体験だった。ボーダーカットソーを作るG.F.G.S.代表の小柳さんが立ち上げた音楽レーベルのCD発売記念ライブとして、トラベラーズファクトリーで福島諭さんのライブが開催された。打ち合わせでは、福島さんはPCを操作するだけで、あわせてサックス、オーボエ、クラリネット、尺八の奏者の方が来るというのを聞いて、あの狭い空間で大丈夫なのかと心配になるのと同時に、今までにない新しい体験を予感して胸が高鳴った。
そしてライブ当日。緊張感の伴った静寂のなかで、管楽器の音数の少ないフレーズが鳴ると、その音を追うように同じフレーズが追いかけてきたり、歪んだような音が波を打つように聴こえてくる。管楽器の生音とコンピューター処理された音が絡まり包まれていくことで、その空間ごと別世界を旅したような気分になっていくのだ。
YMOの時代には、タンスくらいの大きさのコンピューターだったけど、福島さんは、演奏者の横でマックブックに向かいながら、まるで魔術師のように不思議な音を作り出していく。うまく言えないんだけど、いつかこの場に立ち会えたことが奇跡だったと思えるような、そんなひとつのボーダーを越えるライブだった。
新潟加茂でボーダーカットソーを作るG.F.G.S.代表の小柳さんは、新潟出身の彼のライブを体験して、そのCDをリリースしたくてレーベルを作ることを決めたそうだ。そして、小柳さんはそのリリース記念の初ライブ、さらにgroovisionsさんとのコラボモデルの発表を兼ねたワールドツアーの始まりの場として、トラベラーズファクトリーを選んでくれた。そんな小柳さんの心意気に僕らが応えられたかどうか分からないけど、僕らは小柳さんの作るボーダーができあがるのが楽しみだし、ライブは心から楽しませていただいた。
イベントが終わると、G.F.G.Sさんは、ワールドツアーの次の開催地、台北へと旅立っていった。今週9月23日より10月2日まで、台北の松山文創園でG.F.G.Sさんのイベント、オーダーボーダーが開催されます。台湾の方は、ぜひ足を運んでみてください。気心地もすばらしい素敵なボーダーですよ。