Born To Run
先日のイベントの打ち上げで、シンガーソングライターの山田さんが最近出版されたブルース・スプリングスティーンの自伝が面白いと話をしていて、そういえば、アメリカでも本屋でその本が平積みされていたのを思い出して、読んでみることにした。
ブルース・スプリングスティーンといえば、出会いはやはり僕が中学生の頃に大ヒットした『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』。だけど、本当の意味で彼の音楽にはまっていったのは、その次にリリースされたレコード5枚組のライブアルバムだった。毎週のように通っていた錦糸町の貸レコード屋、友&愛でそのレコードを見つけて借りることにしたのは、その物量に対してレンタル代がお得だと思ったからのような気がする。そんな理由はともかく僕はこのライブ盤を何度も聴くうちに、スプリングスティーンの放つロックンロールマジックにすっかりノックアウトされて、彼がそれ以前にリリースしたアルバムを一枚ずつ、友&愛で借りていった(まだ高校生だったからね)。
ブルース・スプリングスティーンの自伝は、ちょうど上巻を読み終えたところ。幼少期からはじまり、ロックに目覚めギターを手にし、バンドを組んでライブを重ねていく場面を経ながら、『ボーン・トゥ・ラン』で成功を手にするまでを中心に描かれている。だけど、ロックスターのサクセスストーリーというより、悩み傷付きながら自分なりの表現を手にしていくまでの軌跡が生生しく綴られている。そこで何よりも感じるのは彼のロックへ向かう真摯な姿勢と深い愛情だ。 読みながら、僕もロックに何度も救われてきたことを思い出した。自分が何者か分からず、周囲に馴染めず、間違った場所にいるように感じていた思春期。ロックが、孤独な日々をやり過ごす勇気を与えてくれた。
バンドを組んでギターを手にして歌うことで、自分にも何かができるかもしれないと思うことができたし、メンバーとグルーブを体感することで、同じ思いを共有できる仲間と一緒に何かを作ることの喜びを教えてもらった。それは孤独で内向的だった僕を大きく変えて、世の中に向かっていく力を与えてくれた。
さらに、トラベラーズノートを作るときには、ロックが僕らにヒントを与え、目標となった。ロックがかつての僕の心を触発し、生きていく勇気を与えてくれたように、僕らが作ったものも、わずかでも誰かに勇気や希望を与えられるかもしれない。そんなことを本気で信じることで、仕事のやり方が大きく変わっていった。ロックを奏でるようにプロダクトを作り、ライブをやるようにイベントを行い、お店を作った。
この本のなかで、スプリングスティーンは、ラジオからはじめて自分の曲が流れてきた時のことを、興奮気味に語っている。かつて15歳の彼がラジオから流れるボブ・ディランの音楽に触発され、心を呼び覚ましてくれたように、自らも同じ旗を立てる誰かを触発している。そんな栄光の連鎖のひとつになれたのだと実感したと語っている。ちょっと夢みたいなことかもしれないけど、僕らもいつかそんなことを実感したくて、ノートを作っているのかもしれない。