2017年2月20日

僕らが欲しかった万年筆

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僕にとっての万年筆との出会いは、中学生の入学祝いで両親からもらったのが最初だった。当時はまだそんな習慣がぎりぎり残っていて、万年筆も腕時計や革靴みたいに大人になるための通過儀礼のような道具のひとつで、入学や卒業祝いにあげるモノの定番だった。手に入れると、早速カートリッジインクを差し込んだり、紙にインクを垂らしたりして、ちょっと大人になった気分でワクワクしながらその新しい道具を使ってみた。だけど、中学生にとって万年筆が必要なシーンはほとんどなく、いつからか引き出しの奥にしまわれて、その存在を忘れるとともにどこかになくなってしまった。
 
その後、万年筆をまた使ってみようと思ったのは、ちょうど10年前のトラベラーズノート発売時。そのアナログな質感に万年筆が似合うと思って土橋さんがすすめてくれたラミーのアルスターを手に入れた。それからは、お気に入りのデザインを見つけると何本か購入し使っていたんだけど、どれも安価なものばかりでずっと使い続けるまでには至らず、それほど熱心な万年筆ユーザーにはなれなかった。
 
ただ、手紙やお礼状などを書く際には、やっぱりちゃんとした万年筆で書きたいなと思い、数年前、思い切ってペリカンのスーベレーンを購入。書き味はもちろん、手にした時の存在感も素晴らしくて、手紙などを書く時のためにいつもペンケースに忍ばせている。だけどトラベラーズノートのペンホルダーに付けてふと思い付いたことを書き留めるには、ちょっと大げさ過ぎるような気がした。

3月、トラベラーズノートの仲間、ブラスプロダクトに万年筆が登場する。トラベラーズノートにしっくりくる万年筆がずっと欲しかった僕らにとって、2010年にブラスプロダクトをリリースして以来、万年筆をそのラインアップに加えることは念願だった。
 
トラベラーズノートのペンホルダーにざっくりと差し込んだり、ポケットにそのまま放り込んだりして、いつでもどこでも気軽に持ち歩き使える。ちょっとした傷はあまり気にならず、むしろそれが味と思えるような、タフでガシガシと使える、使い勝手の良い職人の道具のような佇まい。高級品ではなく、かといって壊れやすい安物でもない、シンプルだけど丁寧に作られた上質な日用品のような使い心地。毎日使うことで愛着がより深まり、人生の旅の相棒として永く使い続けたくなる。目指したのは、そんな万年筆だ。
 
だけど、それは簡単なことではなく、構想から形になるまでずいぶんと時間が経ってしまった。それを可能してくれたのは、100年以上前からペンを作り続けている日本のある工場との出会いだった。職人や技術者たちがコンマ単位で調整した精密機械のようなパーツを設計からサンプル作成を何度も繰り返してくれて、やっと形になった。
 
手にした時の質感、書き味、キャップが閉まる時のカチっと鳴る音、そして無垢の真鍮の佇まい。最終サンプルができた時には、僕らがずっと欲しかった僕らにとっての理想的な万年筆が生まれたのを実感することができた。僕はその最終サンプルを2週間ほど使っているけど、とても気に入っている。真鍮の色がいい感じに味が出てきて、書くことがまた少し楽しくなったような気がする。
 
それぞれの仕事場や静かな書斎のデスクはもちろん、空港のラウンジや長距離電車の中、旅先のカフェで、さらにアウトドアのキャンプサイトや、安宿のベッドの上でも、ふと何か思い付き、書き留めるのに使ってほしい、そんな万年筆です。あと1ヶ月と少しで店頭にも並ぶと思いますので、ぜひ、手にとってみてください。
 
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