10年続けて思うこと
今から10年前のトラベラーズノートが生まれて1年を過ぎた頃。僕らは、このノートがもたらしてくれる不思議な力の存在をだんだん意識しはじめていた。それは、自分が実際にノートを使うことで気付き、僕らに届くメールやハガキに、使っている方が書いたブログを読むことで確信に変わっていった。
ノートの使い方や感想、アイデアなどが書かれたメッセージからは、同時にトラベラーズノートが大切な存在で、そこに深い愛情があることが伝わってきた。僕らはそれらを読みながら、作り手として純粋に嬉しく思うだけでなく、使い手として「そうそう」と共感しながら、自分たちの使い方も広がっていった。例えば、連結バンドは、ユーザーが使っていた手作りのゴムがアイデアの起点だったし、画用紙は、ユーザーの要望から生まれたリフィルだけど、それを作った自分自身がそのリフィルをきっかけに絵を描くことにはまっていった。
相互にコミュニケーションが生まれることで、ノートの使い方が広がり、それが自分の生活にちょっとした変化をもたらしてくれる。それこそが、このノートの最も大きな魅力であり、それをもっと多くの人に感じてもらいたいと思って、2007年9月、サイトに2つのコンテンツを加えた。
ひとつは、「みんなの投稿」で、みなさんからトラベラーズノートに関する投稿を受け付けて閲覧できるようにした。当時、掲載の謝礼となる景品にステッカーを選んだのは、深夜ラジオの投稿でステッカーがプレゼントされていたのを思い出したからだ。深夜ラジオのように、発信者とオーディエンスが密に繋がり、相互に影響しあうような世界を作っていきたいと思った。
今ではすっかりさぼっているけど、最初の5、6年は、シールを送る時には手書きで手紙を書いて送っていた。唯一の皆勤賞であるHideさんのストーリーをはじめ皆さんからの投稿を見たり読んだりするのは今でも楽しみだし、セレクトやバッジを送る時の梱包は自分でやるようにしている。なので発送が遅れてしまいがちなのは私のせいです。
そして、このブログも同じ時期にはじまった。自分自身も発信をしていくことで、皆さんのトラベラーズノートの使い方が広がり、生活に変化をもたらせたら嬉しいなと思ったからだ。
最初のブログが2007年の9月4日だから、ちょうど今日で10年続いたことになる。めったに読み返すことはないけど、あらためて最初の頃の日記を読むと、ずいぶん昔のことのようにも思うし、ついこの間のことのようにも思う。いずれにしてもここに書いてあるには、トラベラーズノートとそれを使う人たちの歴史であり、僕らが歩んできたトラベラーズノートとの旅の記録だ。
その後ブログを立ち上げた時にはなかった、ツイッターにフェイスブック、インスタグラムなどSNSと呼ばれる発信手段が次々と登場した。発信の効果や相互のコミュニケーションにおいては、きっとSNSの方がブログよりも有効だし、僕らも積極的に使わせてもらっている。また、当時と比べて公式サイトの更新頻度も増えたしトラベラーズファクトリーのサイトもできたから、何かを伝える手段や方法は様々な形で増えている。そのどれもが、トラベラーズらしくありたいと気持ちを込めながら、手間をかけてみんなで作り上げている。
情報を発信するという意味では、今ではブログはちょっと流行遅れで、まどろっこしいものになっているのだろうし、実際にどれだけの人がこのブログを読んでくれているのかだって分からない。だけどその分、僕にとっては、あまりかしこまらず気軽に本音や、個人的な趣味の話、裏側の想いを伝えられる場にもなっている。
このブログを立ち上げる時に作ったルールがある。嫌いなことや批判的なことは書かず、好きなことや嬉しかったこと、感動したことを正直な気持ちで綴ろうということだ。もちろん日々の生活では怒ったりすることもあるし、それなりに好き嫌いが激しいので、くだらないとか、つまらないと文句を言うことも多い。それをきちんと文章で伝えることも大事なことだと思うけど、このブログでは、それはやめようと思った。
好きなことを好きだと、嬉しいことを嬉しいと言う。辛いことばかりの中でも、ほんの少しでも喜びを見つけて、楽しいと言おう。そうすれば不思議と辛かったことは忘れて楽しいことが増幅していく。一見古ぼけて汚い風景からも、ほんとうの美しさを探し出すこともできるかもしれない。それを自分の中でルールとして決めたのは、やっぱりトラベラーズノートは、楽しいことを綴るノートでありたいと思ったからだ。
昔のブログを読み返していたら、ボランティアの植林活動を手伝った時のことが記されていた。そこには、木を植えることより、その後に手入れして森へと育てあげていくことの方がずっと大変なことだと書いてあった。これはものづくりやお店作り、サイトも一緒で、立ち上げることより、それを愛情を持って大事に育てあげることの方が、ずっと手間がかかり労力が必要だ。
僕らがトラベラーズノートが10年以上続けることができたのは、同じ思いを共有する仲間と、愛情を持って使い続けている方がたくさんいたからで、それゆえに僕らにとっては育てていくことを楽しみながら続けていくことができた。
このブログもまた、ささやかながらも読んでくれる方がいると思うからこそ、なんとか10年間も続けていくことができたのだと思う。ここ数年は1週間にひとつ書くのを勝手に自らに課した義務のようにしていて、僕なりに何を書こうか、悩んで絞り出すように書くこと多かったりする。誤字脱字はもちろん、つまらなかったり、独りよがりの内容もたくさんあるだろうけど、それでも10年続けてきてよかったと思うし、読んでいただいた方には感謝の気持ちでいっぱいです。これからもお付き合いいただけると嬉しいです。
話変わりますが、今週土曜日はオズマガジンさんと「中目黒よりみちノートイベント」を開催します。夕方には古川編集長とのトークショーもあります。オズマガジンといえば、僕は、巻頭の編集長の言葉が好きでいつもそのページから読み始めます。そんな編集長から何が聞けるのか、今から楽しみです。トークショーの募集は火曜日までです。お時間がある方はぜひ参加してください!