2025年5月19日

水縞 × トラベラーズカンパニー

 現在、トラベラーズファクトリーでポップアップを開催してもらっている水縞の植木さんとはじめて会ったのは、確か青山スパイラルで、トラベラーズノートのイベントを開催したときだったと思うから、もう15年以上前のことになる。

 当時、植木さんは、水縞の他に、プルンニー(Phrungnii)というブランドの代表兼デザイナーでもあった。ちょうどスパイラルの上階のフロアで、プルンニーのポップアップをやっていて、トラベラーズノートのイベントを覗きに来てくれたのだ。その頃、プルンニーのブックパッカーという商品を店頭でよく見かけていて僕も気になっていた。

 ブックパッカーは、ショルダーベルトが付いた布製のブックカバーで、肩にかけて本を持ち歩くことができるのが特徴だった。当時は、今みたいにスマホなんてなかったから、旅をするときはガイドブックは必携だった。旅のスタイルによってガイドブックの種類は異なるのだけど、バックパッカーが海外で使えるガイドブックは、ほぼ「地球の歩き方」一択だった。

 ブックパッカーには、「地球の歩き方」のサイズがある。これがあれば、旅先で「地球の歩き方」を楽に持ち歩ける。その上、「私は日本人旅行者です」という主張がダダ漏れする、あの目立つ表紙が隠れるのもいい。店頭で見ながら、「ああ、これは本物のバックパッカーが作った商品だな」と思った。

 ちなみにブランド名のプルンニーは、タイ語で「明日」を意味する(これを書くためにネットで検索して、今知ったんだけど)。そして、植木さんの下の名前は、明日子さんなので、それをタイ語にしたブランド名だったんですね。そんなことを知ると、バックパッカーとして「地球の歩き方」を手にタイを旅していたときに、この商品を思いついたのかな、なんて想像してしまう。

 トラベラーズノートのイベント会場で、植木さんと挨拶をすると、僕は「ブックパッカー知っていますよ。いい商品ですよね。地球の歩き方を持ってするような旅が、しばらくできていないので使っていませんけど、そんな機会ができたら使いたいと思っていました」なんてことを言ったような気がする。

 それに対して、植木さんも「このノートはタイで作っているんですね。タイはいいですよね〜」なんてことを言ってくれた気がする。なにせ15年以上前のことなので、記憶はあいまいです。ただ、そのときの植木さんが、柔らかく穏やかな雰囲気だったのは、よく覚えている。

 それから水縞が本格的に稼働するタイミングで、ちょっとした相談があり、再び植木さんとお会いする機会があった。そのときは、水縞を一緒に立ち上げた吉祥寺の文具店、サブロの村上さんとも初めてお会いした。サブロは、たとえば、「いろはにほへと」の文字のスタンプとか、ロケット鉛筆に竹の定規、学校の先生がよく使っていた長く伸びるポインターペンなど、昔からある定番文具を村上さんの視点でセレクトして並べることで、懐かしさと同時に新しい魅力を感じさせ、当時注目されている店のひとつだった。

 そのときに、水縞という名前が、植木さんの水玉好きと、村上さんの縞々好きが由来となっていることからはじまり、植木さんがタイに行ったときに買ってきたタイ製の文房具を村上さんに見せたことがきっかけで、一緒にブランドを作ることになったという話を伺った。

「そうなんですよね。タイの紙ものとか、味があっていいんですよね」なんて感じで、トラベラーズノートの仕事でよくタイに行っていた僕も答えた。そう言えば、水縞が始まったのも、トラベラーズノートと同じ2006年ということで、勝手に親近感を抱くようになった。

 それから、頻繁にやり取りすることはなかったけれど、ずっと気になるブランドとして水縞は頭にあったし、近くでポップアップがあると見に行った。

 タイの数字のフォントでデザインした数字のポストカードにカンバッジ、タイで作った木軸のスタンプ、味があるのに品もある水玉と縞々のグラフィックや絶妙な抜け感が味わい深いイラストの紙ものなど、水縞らしさを感じるラインアップ。正直に言えば、当時、すでに40を過ぎた男の僕自身が使うものではなかったけれど、純粋に素敵だと思った。

 それからしばらく連絡も途絶え、トラベラーズファクトリーがオープンして何年か経った2018年、植木さんから「なにか一緒にやりませんか?」と連絡がきた。早速、打ち合わせの機会を持つと、連絡がない中でもお互いにそれぞれのブランドのことを気にしながら、過ごしていたことが分かって嬉しくなった。

 コラボレーションアイテムとして、水縞の人気シリーズ「大人のノート」から、「大人の練習帳」をピックアップして、トラベラーズノートのリフィルを作った。この大人のノートも水縞独特のセンスが味わえて楽しい。

 表紙は、味のあるクラフト紙に、子供の頃に駄菓子屋で売っていた点取占いを思わせる、これもまた絶妙な抜け感のあるイラスト。さらにページの隅には、子供の頃に宿題でやらされた漢字ドリルみたいにイラストを練習するフォーマットが印刷されている。そのノート自体が、まさに子供の駄菓子屋で売っていそうな佇まい。手にすると遊び心とともになんと言えない懐かしい気持ちが湧いてきた。

 そして、あれから7年経って、植木さんから届いた久しぶりのメールをきっかけに、現在開催中のトラベラーズファクトリーでのポップアップとコラボレーションが決まった。

「倉庫を整理していたら、今では廃盤になったタイの木軸スタンプのベースのデッドストックが出てきたのですが、これを使って、何か一緒にやりませんか?」と植木さんからのメールが届いた。

 メールが届く少し前、僕は、水縞のインスタにアップされていたコンセプトムービーを見ていた。そこにトラベラーズノートがちらっと出てきて喜んでいた。そんなタイミングで、久しぶりに連絡が届いたことに嬉しくなり、「では、まずはお会いして打ち合わせをしましょう」と返事をした。

 打ち合わせで、話はスタンプから、さらに広がり、今回のラインアップが決まった。おかげさまで、現在トラベラーズファクトリーで開催中のポップアップはご好評いただき、品切れのアイテムも出てしまっていますが、まだしばらく続きますので、ぜひ、遊びに来てください。