2017年10月 2日

『いまモリッシーを聴くということ』

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10月がはじまった。今年の10月は、今週はチェンマイ出張があり、14日、15日にはトラベラーズファクトリー6周年イベントとして、山田稔明さんのライブとアアルトコーヒー庄野さんのカフェイベントがあったり、月末にもファクトリーで別のイベントがあったりで、盛りだくさんの1ヶ月になりそう。ライブとカフェについては近日中にサイトにアップする予定なのでもう少々お待ちください。
 
さらにトラベラーズファクトリー恒例となっている6周年記念缶ももちろん登場する予定で、こちらもまもなくアップします。ちなみに毎年、周年の数字にちなんで作っているトラベラーズファクトリー6周年のテーマは、「You can play any melody on the six string」。six stringとはギターのことで、例えば、1985年のブライアン・アダムスのヒット曲「Summer of '69」では、こんな感じで歌われている。

「I got my first real six-string
 Bought it at the five-and-dime
 Played it 'til my fingers bled
 Was the summer of sixty-nine
 
 人生最初のギターを手にれた。
 ディスカウントショップで買った安物だけど、
 指から血がでるまで練習した。
 1969年の夏のことだった」
 
この曲に特別な思い入れがあるわけじゃないけどヒットした頃は、FMラジオが友達だったから、いかにも80年代のアメリカンロックらしい明るいギターリフから始まるこの曲は、何度も繰り返し聴いた。
 
話はちょっと変わって、夏に京都の誠光社さんで買って以来ずっと積読状態だった本『いまモリッシーを聴くということ』を先週やっと読んだ。タイトルの通り、ザ・スミスのモリッシーについて書かれた本で、1984年のザ・スミスのデビューアルバムから2014年リリースしたソロ最新作までをアルバム毎にイギリスの時代背景とともに考察する視点が面白くて一気に読んでしまった。
 
ザ・スミスについてはここでも何度か書いてきたけど、以前に彼らのアルバム「The Queen is the dead」とその収録曲「There is a light that never goes out」について書いた時、今はもうやめてしまった会社の後輩が、僕の横に立って、ちょっとニヤつきながら「僕が今まで聴いてきた中で一番好きなアルバムと、その中で一番好きな曲です」とつぶやいたのを思い出した。
 
「There is a light that never goes out」は、「今夜、僕を連れ出して」というフレーズから始まる。家には自分の居場所はなく、どこでもかまわないから車で連れて出して欲しいと願い、さらに2階建てバスや10トントラックが突っ込んでも、君と一緒に死ねるのなら嬉しいと歌う、そんな思春期特有の暗くて救いのないセンチメンタリズムに溢れた曲だ。後輩のちょっとはにかんだ笑顔は、「自分も同じようにこの曲に救われた経験がある」ということへの照れと同じ同志として共感を表していたのだと思う。
 
この曲は、「決して消えることがない光がある」というタイトルのフレーズをモリッシーが繰り返し、つぶやくように歌いながら終わる。ここで歌われる「光」は、救われない状況にも希望が消えることがないということを光に例えて抽象的に表しているとずっと思っていたら、『いまモリッシーを聴くということ』は、別の解釈があることを教えてくれた。
 
この光は、文字通り、まったく消えることがない部屋の灯のことを言っていて、「連れ出して」と願いながらも全然外へ出ることがないから、部屋の灯が消されることがない状態を歌っている、そして、それは部屋から出ることなく一人でずっとスミスを聴いていた思春期の自分のことだ、と書いている。もちろん詩の解釈に正解なんてないし、受け手側が自由に感じ取ればいいことだけど、あらためてこの曲を聴くと、この解釈の方がしっくりくる。「決して消えることがない光」は、希望の光ではなく、救われない状況で絶望感に浸っている少年の状況をただ詩的に美しく描写しているのだ。そして、そこに美しさを見出すことで、きっと多くの思春期の心を救っている。
 
前出の「Summer of '69」は、仲間と楽しくバンドの練習を繰り返していた輝かしい10代の頃を振り返り、あの時代に戻りたいと歌っているけど、モリッシーは、ひとり部屋に閉じこもっていた暗い10代の頃を振り返り、今そうである少年たちの気持ちを代弁するように歌う。もちろんあの頃に戻りたいなんて気持ちは一切なく、ただ辛い現実に対する共感を歌う。ちょうど同じ頃にリリースされたこの2曲は、どちらも名曲だと思うけど、僕は後者の方により深くシンパシーを感じる。
 
それにしても、一聴すると希望を感じさせるフレーズで、絶望を表現し、さらにそこから美しさを見出す彼の詩はやっぱりすごいな。この本にもあるように、ザ・スミスの魅力は、「ジョニー・マーのポップで陽性のギター」と、「モリッシーの深遠で暗い歌詞」のような「相いれないはずの両極にあるものが奇跡的に融合」した二面性こそが大きな魅力になっている。トラベラーズが作る世界もまたそうでありたいと思っている。
11月にリリースされるモリッシーのニューアルバムのリードシングルが最近ネットにアップされたんだけど、そのタイトルが「Spent The Day In Bed」。「1日中ベッドの上で過ごした」なんて、58歳になってもちっとも変わっていない。やっぱりすごいな。
 
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