チェンマイで学んだこと
今、バンコクから日本へ帰る飛行機の中でこの日記を書いている。バンコク発成田行きのタイ航空676便は、朝6時50分にバンコク・スワンナプーム空港を出発した。そのためホテルを出たのは朝5時の夜明け前。まだ外は真っ暗だった。飛行機に乗るといつも楽しみにしている映画も見ないでしばらく眠っていたけど、だいぶ眠気も取れてきた。飛行機は、今台湾上空を過ぎたところだ。
今回の旅の目的は、もちろんチェンマイにあるトラベラーズノートの革カバーを作る工場を訪れること。最近は、いろいろなタイミングが重なり、秋に訪れることが多い。ちょうどこの時期のチェンマイは雨期にあたる。雨なんてまったく降るように見えない青空が、突如雲に覆われると、滝のような雨を降らせる。ひどい時には道路が川のようになってしまうくらい降るけど、それも長くても1時間程度で、しばらくすると雨は上がり、さっきまでの雨は嘘だったようにまた青空になる。
この季節には、ほぼ毎日こんな天気が続く。雨は、ある人にとっては仕事を中断させる小休止となり、ある人にとってはその日に片付けようと思っていたちょっとした何かを諦める理由になる。さらに、雨は一時的な冷却装置となって涼しさを人々にもたらし、豊かな収穫の源にもなる。激しいスコールを眺めながら、この雨もまたチェンマイの人たちが持つ、温かく穏やかな人柄に大きな影響を与えているんだろうなと思った。
今回もこのチェンマイで、工場のオーナー夫妻と打ち合わせをしながら、新しいプロダクトをいくつか作り上げていった。出張前に依頼していたサンプルを確認し、不具合がないか、より良いものにできないか、お互いに意見を出しながらチェックしていく。そして、いくつかの修正点を決めると工房で作り直してもらい、再びチェック。それを何度か繰り返しながら最終形へと仕上げていく。もちろんメールと国際宅急便で同じことをすることも多いけど、現地の方がスピードも速いし、加工現場を確認しながらオーナー夫妻と話をしたり、さらにチェンマイの空気を感じながら進めることで、よりトラベラーズらしいプロダクトになるような気がする。
僕らはプロダクトから滲み出るような空気感とか、佇まいを大切にしている。それは、デザインやコンセプトだけではなく、生産現場となる場所の雰囲気やその土地の空気も影響を与えながら、自然と形成されていくものだと思っている。トラベラーズノートが生まれたきっかけの一つは、このチェンマイの人たちとその土地に魅了され、その空気を感じられるプロダクトを作りたかったからでもある。
チェンマイ最後の夜は、オーナー夫妻と食事をしながら、トラベラーズノートが生まれた時の話で盛り上がった。それは彼らにとっても新しい試みだったから大変なことも多かったけど、何年か続けることで仕事を楽しむということが分かったような気がする、と話してくれた。それは僕らにとってもまったく同じことで、彼らと仕事をすることで、チェンマイの自然や文化、さらに彼らのパーソナリティーからも、様々なことを学んだ。仕事と暮らしにはっきりした境界線を引かず、趣味や家族との遊びすらも仕事に結びつけて、それぞれに喜びと楽しみを生み出していくこと。自分たちの生まれた土地に愛情と誇りを持ち、その土地だからできることを強みにすること。思いついたらすぐに手を動かし形にすること。そんなものづくりの考え方は、トラベラーズらしさへ繋がっていった。
約15年前にタイで知り合い、それからお互いの仕事や人生に大きな影響を与えながら関係性を深め、今もまたこれからのお互いの夢についてワクワクしながら話をしている。チェンマイに来ると、僕らはいつも初心を思い出し、同時に未来への夢が浮かんでくる。チェンマイには僕らにとって大切なことがたくさん詰まっている。
アナウンスによると、そろそろ飛行機は着陸態勢になるそうだ。CAがテーブルをたたむよう声をかけてきた。
さて、チェンマイから戻り、今週末には、トラベラーズファクトリー6周年記念のイベント。10月14日んは山田さんのライブ、15日にはアアルトコーヒー庄野さんのカフェイベントにコーヒー教室が開催されます。コーヒーの淹れ方から、豆や深さによる味の違いなどわかりやすくお話ししてくれます。さらに庄野さんの新刊『コーヒーと随筆』のこともお話ししてくれます。そういえば、庄野さんもコーヒーを通じて、チェンマイの工房オーナーのように僕らに仕事に対する向かい方からものづくり、お店造りに大きな影響を与えてくれた仲間の一人。まだ席に余裕があるので皆様の参加をお待ちしています。