2018年6月18日

Radio Ga Ga

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先週、久しぶりにFMラジオを聴いた。それは、去年読んで感動した小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」の作者、燃え殻さんが出演する番組で、深夜にひとり布団に入りながら、イヤホンから聞こえてくるお話や音楽に耳を傾けていると、ずっと引き出しの奥にず仕舞ってあったような、懐かしい感覚がふわっと蘇ってきた。
 
中学生の頃、よく勉強をするふりをして、机で深夜ラジオを聴いていた。今まで聴いたことがなかった音楽に出会ったり、まだ見たことがない世界のことを知ったり、ラジオから流れる新しい情報にワクワクしながら耳を傾けた。だけど、久しぶりに聴いたFMラジオは、あの頃僕らがラジオに夢中になったのは、それだけじゃないもっと切実な理由があったのを思い出させてくれた。
 
深夜の誰もいない部屋。未来には希望よりも不安がたっぷりで、この先、世の中でうまく立ち回っていく自信なんてこれっぽっちもない。いつも頭の中には、憂鬱と孤独感が霧のように漂っていた中学生の僕は、ラジオを聴くことで、世の中と繋がっているような感覚を得ることができた。ラジオで話すディスクジョッキーは、そんな不安や孤独を見下すことなく、だからと言って解決してくれるわけでもなく、ただ自分も同じように不安や孤独を抱えながらそれでもなんとか生きてきたから大丈夫だよと当たり前のこととして肯定してくれた。そして、リスナーから送られたハガキを紹介することで、今この瞬間、同じ周波数に合わせてひとり耳を傾けながら、共感している仲間がこの世界にたくさんいることを教えてくれた。
 
マイクに向かってディクジョッキーが話している深夜の閑散としたスタジオの灯り、寝静まった街の片隅で眠りにつくことも、外に出かけることもなく、ひとりでラジオに耳を傾けているリスナーの部屋の灯り。それらは、北極星とその周りでかすかに光る星座のように、見えない線でつながっているような気がした。
 
今はSNSやLINEなどで、もっと分かりやすく誰かと繋がることができるのかもしれないけど、深夜ラジオが感じさせてくれるのは、ちょっとでも力をいれて引っ張れば切れてしまう細い糸のような心許ない繋がりだった。だけどその分、人の温もりが感じられる優しさとともに、僕はひとりじゃないっていうことを教えてくれた。久しぶりに聴いたラジオで、リスナーに対する愛情たっぷりの燃え殻さんとアナウンサーの秀島さんのお話に何度も共感をし、同じようにこの国のどこかで共感している知らない誰かのことを想像し、中学生だった頃と同じように、ささやかな希望を感じた。やっぱりラジオっていいな、そんなことにあらためて気付かされた。
 
実は、久しぶりにラジオ番組を聴いてみようと思ったもうひとつの動機に、FMまつもとという長野県松本市のコミュニティーFMの番組で、ボイスメッセージという形で出演するという機会をいただいたということがあったから。Hickory Sound Excursionという番組のパーソナリティの久納ヒサシさんが、トラベラーズノートのユーザーということもあって、そんな経験がまったくない私に声をかけてくれた。もうボイスメッセージの録音は終わっていて、番組の1コーナーで数分お話して、曲を1曲紹介するだけなんだけど、ラジオが友達だった僕にとっては嬉しくて感慨深い体験だったなあ。
 
そんなわけで、6月21日(木)の19時30分からFMまつもとで放送するHickory Sound Excursionにちょっとだけ登場します。お聞き苦しい点もあるとは思いますが、お聞きできる方は耳を傾けていただけたら嬉しいです。松本市以外の方は、後日こちらのサイトでも聞けるようです。

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