2019年4月 1日

春の思い出

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今年高校を卒業し、4月から大学に入学する娘は、YouTubeで見つけたのか最近なぜかラーメンズにはまっていて、先週ひとりで静岡まで行き、元ラーメンズの小林賢太郎氏の舞台を観ていた。そんな姿を見て、自分も高校を卒業して大学に入学するまでの休みに、ピンクフロイドとミック・ジャガーのライブに行ったのを思い出した。どちらの会場でも周りは年上ばかりで、当時18歳だった僕はちょっと浮いていた。
 
ピンクフロイドは、中心メンバーだったロジャー・ウォーターズが抜けて初めての来日で武道館でのライブだった。2部構成のライブで、1部はそれほど聴き込んでいなかった新しいアルバムからの曲が中心だったけれど、2部になると過去の名作からの曲ばかりで、最後は「アニマルズ」のジャケットにある巨大な豚が客席の上に出てきたりして盛り上がった。
 
ソロアルバムを出したばかりのミック・ジャガーは初来日で、当時はまだローリングストーンズとしても来日したことがなかった。だから、完成して間もない東京ドームに集まる客は、みんなソロアルバムの曲よりストーンズの曲を聴くことを期待していた。ミックもその期待に応え、ストーンズの曲を序盤からたっぷり演奏してくれた。
 
中盤「ルービー・チューズデイ」が始まると、ずっと涙を流しながらミックにあわせて歌っていた隣のおじさんが興奮を抑えきれずに客席の前にあるバックネットによじ登りはじめた。途中まで登ったところで、最後は警備員に抱きかかえられるよう降ろされ、どこかに連れていかれた。その後もストーンズの曲を何曲も演奏していたからそういうことをするのなら最後にやればいいのにと、ちょっと冷静におじさんを憐れんだのが一番記憶に残っている。アンコールは、名曲「悪魔を憐れむ歌」だったけれど、おじさんは聴くことができなかった。
 
その数年後、今度はローリングストーンズとして来日をした。当時大学生だった僕は友人と一緒にそのライブに行き、終わると車で遠出をした。夜の道路をカーステから流れるストーンズに興奮しながら車を走らせる友人は、スピードを出し過ぎてカーブで車がスピンした。対向車線にはみ出して2、3回転してやっと車が止まったけれど、偶然他の車が通らなかったので、車も人も無事だった。助手席に座っていた僕は、回転する車のなかで一瞬死を意識した。その時にカーステから流れていたのは、友人も僕もストーンズで一番好きな「悪魔を憐れむ歌」だった。
 
あれから30年近く時が過ぎて、僕はバックネットを登ったおじさんの年齢をとっくに過ぎてしまった。今月はじめに、大学生になる息子が友達の運転する車で事故にあって、小田原から電車で帰ってきた。あの頃の僕と同じように一瞬死を意識したみたいだけど、幸い身体は無事だった。
 
4月になり、トラベラーズファクトリーの近所の目黒川の桜も満開に近くなってきた。桜を眺める人たちはみんな笑顔で楽しそう。だけど、桜の花びらの隙間からキラキラ輝く太陽の光が差し込み、春の温かい風を体に受けると、突然ぼんやりとした不安に包まれて、沈鬱な気分に襲われることがある。
 
僕らは、音楽を聴いたり、本を読んだり、コーヒーを飲んだり、ノートに向かい合うことでささやかな明るい兆しを見つけて、新しい季節に一歩を踏み出していく。大丈夫。今までだってなんとかやってきたし、これからもきっとうまくいくはず。
 
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