2019年6月 3日

お気に入りのサウナ

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ひさしぶりにイベントも予定もない土曜日。
 
自転車に乗ってお気に入りのサウナへ行った。昭和の時代に建てられた古くて味のあるビル。銭湯と共有している入り口の受け付けで、「サウナをお願いします」と言うと、健康診断で着るような青いガウンとタオルが入ったてろてろの薄いナイロンのバッグを受け取り、サウナがある2階へ行く。ロッカーの扉を開けて、荷物に脱いだ服を入れると、タオルと文庫本を持ってそのままサウナに入った。
 
12、3人ほど入ることができるサウナ室には、テレビやBGMがないのがいい。静かに本の世界に没頭できる。僕はサウナで本を読むのが好きなんだけど禁止されているところも多い。だけど、ここではほとんどの人が休憩室にある雑誌や漫画本をサウナに持ち込んでいる。そのせいで、ここの本はみんなふやけてよれよれになっている。場所柄、背中に和風の彫り物がある方もいるのだけど、静かに鬼平犯科帳なんかを読んでいたりして、なかなか趣のある空間になっている。
 
身体中から汗が吹き出し、その熱気に我慢できなくなると、サウナ室を出てシャワーをさっと浴びて水風呂に入る。冷たい水に足を入れると、ふーっと息を吐きながら勢いをつけて肩まで浸かる。最初は体がびっくりするのだけれど、だんだん冷たい水が馴染んでくると、なんとも言えない良い気持ちになる。そうやってしばらく体を冷やすと、またサウナに入る。
 
今日のサウナのお供はヴォネガットの短編集。サウナに入りながら短めの短編を読み終わると、また水風呂へ。これを何度か繰り返す。何度目かの水風呂で、ぼーっとする頭で天井をぼんやりと眺めると、まるで天国にトリップしたような感覚になった。お風呂の奥のドアを開けると、小さなベランダに出ることができる。サウナで火照った体で外に出て、爽やかな風を浴びるのも気持ちいい。
 
サウナを存分に楽しんだ後は、休憩室へ。きりっと冷えた炭酸飲料を飲みながら、一服する。この手の場所では今時かなり珍しく、ここではタバコを吸うことができる。壁は長年タバコの煙を浴びたせいで黄ばんでいて、それがまた昭和の朽ちた味わいを感じさせてくれる。
 
ソファにでんと座る彫り物の入った男が、携帯電話で誰かと話し終えると、「シンガポールのXXXっていう仮想通貨って、どうなんだ」と隣の仲間らしき男に言った。「あれはだめだよ、やめておいた方がいい」。今や、どこの業界でもビジネスのやり方はこれまでと急激に変化しているらしい。そんなやり取りが聞こえてくるのも、面白い。休憩室の奥には、仮眠スペースもある。リクライニングシートが8台ほど並ぶ部屋の壁にはなぜか浮世絵の美人画が描かれている。そこでしばらく一眠り。
 
目がさめると、もう外は暗くなっていた。着替えて外に出ると、昼間より少し涼しい空気が、ほてった体を心地よく包んだ。結局、サウナにいるだけで1日が終わってしまったけれど、不思議に充実した気分で家に向かって自転車をこいだ。明日は映画でも見に行こうかな。

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