自転車旅、青森に到着
自転車旅の続き。
十和田を出発してから、雨が降ったり、パンクしたりと、ちょっとした困難もあったけれど、無事青森に到着した。自転車の旅で辛いのは、雨とパンクだ。僕の場合は、それに当たる確率がどうも他の人より高い気がするので、雨具とパンク修理キットは必ず荷物に入れてある。
さて、十和田市内から、長い山道に入ると雨脚も強くなってきたので、カバンから取り出してポンチョを着た。そして、雨でタイヤを滑らせないよう注意しながら、長い坂道を下った。視界に青森湾が現れると、雨も止んで青空が見えてきた。ポンチョを脱ぐと、思わず僕は笑顔になってシーサイドの道を快調に走っていた。そんな気持ちの良い時間は、突然、前タイヤの空気が抜けてしぼんでいくのと同時にあっけなく中断した。とりあえず自転車を止めて、どうしようかと考えていると、マウンテンバイクに乗った少年が通りがかった。
「この辺に、自転車屋さんとかあるかな?」少年に声をかけると「ないよ」とあっさりと告げて「バイバイ」と元気よく去っていった。
自分で直すしかないなと諦めて、しばらく自転車を押して歩いた。10分ほど歩くと、軒先きで作業をしているおじいさんがいたので声をかけた。
「すみません、自転車の空気入れお借りできますか」
「空気入れかあ、あったかなあ」
そうつぶやくと納屋の奥に入り、しばらくがさごそと探し、空気入れを手にして戻ってきた。農家の納屋には、たいていの道具があるのだ。早速、この家の軒先きを借りて、パンクの修理をはじめた。トラベラーズバイクは、旅先でも容赦なくパンクをするので、パンク修理もだいぶ慣れた。作業中、おじいさんがずっと横に立って、見つめていたので、ちょっと緊張したけれど、なんとか無事修理をすることができた。
「どっから来たの?」
「盛岡を出発し、今日は十和田から来ました。これから青森に向かいます」
そう答えると、「暑いのによくやるね」と褒めるわけでも、かと言ってけなすわけでもない微妙な言葉をかけてくれた。そして「なんで青森に行くの?もうねぶたも終わったし、見るものなにもないよ」と追い打ちをかけるように言った。僕もまた微妙な笑顔を返しながら、お礼を言って出発した。
パンク修理で時間をロスしてしまったのとあわせて浅虫温泉でお湯に浸かったり、海を眺めたりしながらのんびり走ったので、青森に着くころにはもう夕方になっていた。ホテルにチェックインすると、ここでも銭湯に行き旅の疲れをいやした。そして、本屋に入ってみたり、お土産屋さんを覗いたりして、自転車で街をのんびり走った。確かに、なんで青森に来たのかと言われると、返す言葉もないかもしれない。だけど、こんな風に知らない街をたいした目的もなくぶらぶら巡るのは、嫌いではない。
すっかり暗くなると、なんとなく目星をつけていた寿司屋にひとりで入り、レモンサワーを頼んで、お刺身をつまみに飲んだ。もともとお酒も強くないし、ましてやひとりで回らない寿司屋に入るなんてことは普段はしないのだけど、旅先ではそんなこともしてみたくなる。最後にお寿司も1人前をオーダーし、お腹いっぱいでホテルに帰った。
翌日は、朝早くホテルを出て、8時20分発の新幹線はやぶさで東京へ帰った。上野まで3時間18分。2014年の夏休みにスタートし、その年は東京から福島県白河まで、2015年の夏休みには白河から仙台まで。2016年は入院したので休み、2017年も電車で岡山まで行ったので休んで、2018年は仙台から盛岡。そして今年2019年、盛岡からやっと青森までたどり着いた。足掛け6年、実質16日間かけてやってきた道のりも新幹線では、わずか3時間18分で戻ってきた。やっぱり新幹線は、すごいなあ。
そんな旅に付き合ってくれたトラベラーズバイクも今回の旅で、変えたばかりのブレーキシューもかなり減ってしまったし、重い荷物を長いこと積んでいたせいかキャリアがすっかりダメになってしまって、もはや満身創痍。この旅の続きは、2代目のトラベラーズバイクとともになるかもしれないな。