プラダ、そしてトラベラーズノートのこと
先週、2020年ダイアリーのラインアップに、プラダとのコラボレーション情報を公式サイトにアップした。コラボレーションについては、やはりインパクトがあったようで、かなり反響が寄せられている。(ダイアリーについてはまた後ほど)
正直に言えば僕らも、最初プラダから声をかけていただいた時、全く想定していなかったブランドだったし、どういうことなんだろうと、不思議に思った。
ブランドのポジショニングに大きな違いがあるし、その知名度や規模も、トラベラーズノートとは比べ物にならないくらい大きいことから、このことを知った多くの人がきっと感じたように、僕らもちょっとした不安も感じた。だけど同時に、世界的なファッションブランドがどうしてトラベラーズに声をかけてきたのか、純粋に興味もあったので、まずは話を聞いてみることにした。
僕らがコラボレーションをする時に大事にしていることがいくつかある。その中でも一番大切なのが、先方がトラベラーズノートとその考えに理解を示し、共感していること。もっとシンプルに言えばトラベラーズノートを好きかどうかということ。他にも細かいルールは設けているのだけど、まずはそこがないとうまくいかないし、なによりやっていて楽しくない。
イタリア本社のデザインチームと打ち合わせをすると、みんなトラベラーズノートのことをよく知っていて、日本のステーショナリーで一番これが良いと思っているから声をかけたんです、と伝えてくれた。想像していたイメージとは違い、とても気さくな方々で、敬意を持って接してくれた。僕らの希望も快く受け入れ、こちらを尊重した上で、一緒にやりたいと熱意とともに伝えてくれた。その言葉から感じる、トラベラーズノートに対する敬意と愛に心を打たれ、僕らはこの流れにのってみたいと思った。
トラベラーズノートは、カスタマイズできることが大きな特徴だ。このノートが持つ不思議なマジックに気づき、魅せられたすべての人たちを受け入れ、それぞれの使い手のパーソナリティーを映し出すことがトラベラーズノートのカスタマイズだ。だったら、プラダバージョンにカスタマイズしたトラベラーズノートだってありだし、今まで想像もしていなかっただけに、どんなものができあがるのか楽しみでもあった。
もしかしたら、そのことによって穏やかな水面に石を投げ入れるように、ちょっとした波紋が生まれるかもしれないけれど、それも含めてワクワクしてくるのを感じた。
トラベラーズノートは、14年前にデザイナーの橋本と僕で始め、その直後に石井が加わり、3人だけの小さなチームでその世界を作っていった。もちろん会社の内外の力を借りることも多かったし、自分たちだけでやってきたとは言わないけれど、特に初期の頃は、チームのメンバー3人で、仕事とプライベートの垣根もなくなるくらい、力も想い入れも注ぎ込んでトラベラーズノートの世界を作り込んでいった。
効率性やマーケティング戦略などはあまり考えず、自分たちの趣味や好きなこと、直感を信じて、自分たち自身がワクワクできることを何よりも大事にした。だからトラベラーズノートに関する仕事は、他の仕事を定時に終わらせてから、放課後の部活動のように、こそこそとやっていた。続けるうちに、3人が練習を重ねたロックバンドのようにグルーヴを生み出し、トラベラーズノートの世界に深みが増していくのを体感した。
また、気になる作り手の人がいたら、トラベラーズノートを名刺がわりに、休みの日でもチームで会いに行ったし、それが遠方なら旅をした。作り手との出会いは、大きな刺激とともに僕らのものづくりに影響を与えてくれた。旅の夜には、トラベラーズカフェがあったらいいなとか、いつかトラベラーズノートの基地を作ろうかとか、妄想を膨らませながら、みんなで夢を語り合った。
そうやって旅を重ねるごとに僕らの想いは強くなり、夢が少しずつ実現していく喜びを、わかちあうほどに、僕らの心は熱くなっていった。トラベラーズノートは、僕ら3人にとって自分たちの子供のような存在になり、チーム自体も、もうひとつの家族のような存在になっていった。もちろん思い通りにいかなくて辛い思いをしたり、悔しくて泣きたくなるようなこともたくさんあったけれど、それもチームでわかちあうことで救われた。
そうやって作り上げたトラベラーズノートだから、イベントにたくさんの方が足を運んでくれて、笑顔でそれぞれの使う人の人柄と愛がにじみ出たノートを見せてもらった時は、涙が出るほど嬉しかった。それからは何かを作る時には、僕らがワクワクするのと同時に、あの人たちもワクワクさせたいと考えるようになった。
今ではチームのメンバーも増えたし、出会った作り手の仲間も増えた。嬉しいことに、僕らに会うために海外から足を運んでくれる作り手の人たちもいる。でも、トラベラーズノートへの思いも仕事のやり方もあの頃とは少しも変わってはいない。
例えば、今年はプラダの他にもスターバックスリザーブロースタリーからはじまり、誠品書店、LOG-ON、TO&FRO、tokyobikeとさまざまな人たちとコラボレーションを行ってきた。だけど、その理由は決してマーケティング戦略なんてものから生み出されたわけではなく、出会った人たちから感じるトラベラーズノートに対する愛に応えたいということと、一緒に何かを作らせてもらうことにワクワクしたからだ。
もちろん過去を振り返ればワクワクしたり、嬉しかったり、感動したりするだけでなく、悩むことだってあったし、生み出し作り上げるための身を削るような苦しみもたくさんあった。そうやって、僕らに起こるをすべてを受け入れながら今だに僕らは妄想とともに青臭い夢を語り合ったり、胸が張り裂けそうな想いをわかちあうことで共に心を奮い立たせたりしている。
これからもトラベラーズトレインは走り続けるし、まだ誰も見たことがない、見ただけで感動して嬉しくて涙がでてくるような、そんな景色を求めてトラベラーズの旅は続きます。楽しみにしていただきたいし、あたたく見守っていただけたら嬉しいです。