2019年9月 9日

ラジオと本は、少年時代からいつも寄りそう良き友 だった

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映画「イングランド・イズ・マイン」は、僕が大好きなバンド、ザ・スミスのボーカリスト、モリッシーのザ・スミス結成前の日々を描いている。映画では、音楽と文学をこよなく愛する、内向的で鬱屈したひねくれ者だった若き日のモリッシーが、なにもかもうまくいかず、挫折を味わい苦悩する日々が続く。
 
モリッシーみたいな才気はなかったし、彼ほどはひねくれていなかったとは思うけれど、うまく人の輪に溶け込めなかった思春期の僕もまた、ラジオと本が友達のような存在だった。
 
部活に本気で打ち込むこともないし、かといって、熱心に勉強するわけでもないから、時間だけはもてあますくらいたっぷりあった。そんなひとりぼっちの時間と、憂鬱で拡張していく心の空洞を埋めるために、僕はむさぼるように本を読み、音楽を聴いた。
小説は、教科書と違って明確な答えを示さないところが良かった。本の中では善と悪は簡単にひっくり返るし、かっこいいことはかっこ悪くて、悲劇と喜劇は紙一重。白と黒の境は、グラデーションのようにあいまいで、角度を変えて眺めたら変わってしまうことを教えてくれた。
 
あの頃、幸せのイメージは、あまりにも漠然として遠い存在だったから、ハッピーエンドの物語より、断ち切れるように終わり、余韻とともにその先にささやかな光を感じさせてくれるような物語が好きだった。そして、ロックは孤独な心にいつも寄り添い、同じ涙をこらきれない人が他にもいるし、同じ気持ちで爆発しそうな仲間にいつか出会えると、教えてくれた。誰にも言えず一人で抱え込まなきゃならない悲しみにも、「分かるよ」と理解を示し、すべてを優しく受け入れてくれた。時には理解できないくせに難しい本を読んだり、誰も知らないような音楽を探して聴くことで、思春期の自尊心をぎりぎりの状態で保っていた。
 
そんな思春期を過ごしてきたから、50歳になった今でも本と音楽は、人生の旅を過ごすために必要な道具であり、いつも身近にいてくれる友達のような存在だ。カバンの中にはいつも本が入っているし、いまだにブルーハーツを聴けば涙が流れてくる。だから、トラベラーズファクトリーの中で唯一小さな本のコーナーとBGMのセレクトだけは、僕のささやかな楽しみとして、独断で決めさせてもらっている。ちなみにブルーハーツは涙がでちゃうから流さない。
 
だけど、1年に1回、中目黒で開催する読書月間の時だけは、weekend books の店主高松さんが選んでくれた古書が並ぶ。
 
例年イベントがはじまる前に、weekend books、irodori の皆さんで本とお菓子を届けるために、沼津からトラベラーズファクトリーに足を運んでくれる。その時、2階でしばらくお互いの近況をお話する時間が楽しい。たいてい冗談みたいな話からはじまるのだけど、ものづくりのこと、お店を運営していくことなど共感したり、刺激を受けたりことも多い。
 
weekend books の高松さんは、まさに本が好きな少女がそのまま大人になったみたいで、のんびり穏やかな雰囲気の中に、自分の好きを貫く揺るぎない意志を感じる方。そんな高松さんが忙しい合間をぬってトラベラーズファクトリーのために選んでくれた本だから、イベントの前夜、店頭に陳列するのは、ほんとうに楽しい時間だ。
 
「これ読みたいなあ」とか「あ、好きな本だ」と話しながら、まるでツルハシで掘り返すたびに、金塊が現れてくるゴールドラッシュの鉱山みたいに、光を放つ本にたくさん出会える。お気に入りの本との出会いは、新しい友達に出会うような喜びを与えてくれるし、時には何度も読み返す、一生寄り添える伴侶のような本と出会えることもある。ぜひ、皆様もとっておきの本を探しに中目黒へ足を運んでみてください。
 
映画「イングランド・イズ・マイン」は、深く落ち込みひとりぼっちで引き篭もるモリッシーの部屋のドアを、若きジョニー・マーがノックし、出会うところで、断ち切れるように終わる。その後、ジョニー・マーがギタリストとして、モリッシーの言葉にメロディーを与えることで、マジックが生まれ、奇跡のような歌とともにザ・スミスとして真正面から世界に対峙していく。そのことを知っている僕らは、そのはじまりの瞬間を目撃することで、映画が終わるのと同時に、どっと涙が溢れ出てくるのだ。
 
話は変わりますが、今週9月12日には、トラベラーズノートの2020年ダイアリーの発売もあります。2020年のデザインのテーマは、トラベルツール。下敷やステッカーなどは、トランクやコンパスからウクレレ、地球儀など、僕らが思う旅の道具をモチーフに、メッセージを添えて橋本がデザインしている。
 
I don't know about you, but the radio and books have been wonderful companions for me since I was young.
ラジオと本は、少年時代からいつも寄りそう良き友だった。
 
人生という旅をともに過ごす大切な旅の道具であるラジオと本には、こんな言葉を添えた。デザインはメロディーであり、メッセージは歌詞みたいだと僕は思っている。今回より、新しいアイテムとしてクリアホルダーも登場します。2020年をともに過ごす旅の道具に加えていただけたら嬉しいです。
 
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