2019年12月16日

トラベラーズ米 収穫祭編

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先週末、9月に稲刈りを終えてから、いろいろあってずっとのびのびになっていたトラベラーズ米の収穫祭を開催した。
 
朝早く家を出て電車に乗り木更津駅に着くと、まずは駅前の喫茶店でモーニングを食べた。入り口には懐かしいネオンの看板が掲げられ、ショーケースの中に食品サンプルのメニューが並んでいる昔ながらの喫茶店だ。えんじ色の絨毯にベルベットが張られた椅子、テーブルにはボタニカル調の彫刻。店の中央には今ではほとんど使う人がいないであろう公衆電話が木枠の重厚な電話ボックスとともに鎮座している。テーブル席では地元の老人たちがそれぞれ新聞を読んだり、タバコを吸いながら、休日の朝の時間をゆっくり過ごしている。僕は足を踏み入れた瞬間、そこを気に入った。
 
モーニングはコーヒーの他に厚切りのトースト、サラダ、炒り卵、フライドポテトが付いて500円。安いことだけが素晴らしいとは思わないけれど、このクオリティでこの価格は素晴らしい。お腹を満たすと、素敵なデザインの店のマッチで火をつけてタバコを吸いながら、ゆっくり濃いめのコーヒーを味わった。充実した気分で喫茶店を出ると、車でやってきた仲間にピックアップしてもらい鴨川へ向かった。
 
鴨川ヒルズに着くと、この場所のオーナーと石井さんが準備をしながら待っていてくれた。収穫祭のメインメニューはもちろんトラベラーズ米だ。まずは慎重に水の量を計ってお米を炊いた。サイドメニューは芋煮汁。ここではお米の他に里芋も採ることができる。ご飯を炊いている間に、里芋にゴボウ、舞茸、牛肉、こんにゃく、豆腐、ネギを鍋に入れてぐつぐつと煮込んだ。
 
この日は雲ひとつない快晴。オープンデッキにはぽかぽかした陽光が差し込み、12月とは思えないような暖かくて気持ちのよい天気だった。まるでこの収穫祭のために、神様が時間を二ヶ月ほど巻き戻してくれたみたいだった。
 
ほかほかに炊き上がったトラベラーズ米を茶碗によそい、芋煮汁は鍋ごとテーブルに置きささやかな収穫祭がはじまった。トラベラーズ米のご飯は、新米らしい甘さとしっとりした粘りがあって最高に美味しかった。5月の田植えからはじまって、汗をたっぷり流しヘトヘトになるまでやった7月の雑草取り、そしてこの周辺にも大きな被害を与えた台風の直後に行った9月の稲刈り。採れたお米は精米するとたった4.5キロしかなかった。だけどお米を口に入れた瞬間、すべての苦労が報われ、ひとつのことを成し遂げた充実感に満たされた。
 
もちろんお米ができるまでには、オーナーにはずいぶん手伝ってもらったし、仕事として農業を行う方にとっては、お遊びみたいなことかもしれない。それでも堂々と僕らが作ったと言うことができる、まさにトラベラーズ米と呼ぶにふさわしいお米ができたことは、ほんとうに嬉しかった。それに芋煮汁も完璧だったし、焚き火で焼いたスペアリブも美味しかったな。
 
アウトドアで仲間たちと食べる美味しい料理。 里山の木々の匂いを感じさせる凛とした空気。やさしく差し込み僕らを温めてくれる太陽の光は隣に一本だけある真っ赤に染まったもみじにも注がれ美しく反射している。僕らはケーブルをコンセントに差し込んだ
携帯電話のように、少しずつ心のエネルギーがチャージされ満たされていくのを感じた。
 
食事が終わると、冬に備えて準備するという薪割りを手伝ったり、裏山に実っている柚子を採ったりした。そしてひと仕事を終えた夕暮れ時、金沢のBenlly's&Jobで手に入れた真鍮のアルコールバーナーでお湯を沸かしてコーヒーを淹れた。バーナーの静かに美しくゆらめく炎に魅せられ、お湯が沸き終わっても火を消さずに灯し続けた。日が沈み暗くなって気温も下がってくる中で、温かいコーヒーを飲みながら、みんなで炎をぼんやり眺めていた。
 
ゆらめく炎には、見る人の心を優しく穏やかにしてくれる不思議な力がある。僕らは現実の様々な問題や面倒なことをしばらく忘れて、ただ炎のゆらぎに心を任せた。やがてアルコールが尽きて炎が消えると、荷物をまとめて帰り支度をした。最後に電気を消すとあたりは真っ暗になった。ここには街灯もないし近くに他の家もない。完全な闇の中を慎重に歩いて車に乗った。
 
帰りに近くにある棚田、大山千枚田がライトアップされているというので立ち寄った。車を降りると、何枚も並ぶ棚田に沿って、たくさんのLEDのキャンドルが連なって置かれ明かりを灯しているのが見えた。それはまるで地図に描かれた等高線のようで、僕らは暗闇に現れた美しい光の地図を眺めながら、幻想的な気分になった。
 
そういえばもうすぐクリスマスなんだな。このライトアップが、サンタクロースが迷うことなくプレゼントを届けるための秘密の地図だったら素敵だな。そんなことを心の中で思ったけど、もちろん恥ずかしいから誰にも言わなかった。
 
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