Happy New Year 2020
あけましておめでとうございます。2020年になりました。一日日付が変わっただけなんだけど、新しい年を迎えたということでやっぱり新鮮な気持ちになりますね。トラベラーズノートのダイアリーリフィルも差し替えたばかりだしね。
今年はネズミ年。僕にとってネズミと言って思い出すのは、ミッキーマウスでもトムとジェリーでもねずみ男でもなくて、ドブネズミ。ブルーハーツの曲「リンダリンダ」の「ドブネズミみたいに美しくなりたい」というフレーズが頭に浮かんでくる。まだ若かりし頃、はじめてこの曲を聴いた時に衝撃を受けて以来、このフレーズはずっと座右の銘みたいに頭に残っている。
例えば古くて今にも壊れそうな朽ち果てた建物を美しいと感じることがある。
人があまり歩かない路地裏にあって、壁にはヒビが入り、色あせた看板なんかが付いている。窓には汚い洗濯ものが干してあり、家の前には欠けた植木鉢がいくつも置かれ、小さな花がけなげに咲いている。そんな建物は、例えるならドブネズミみたいな存在なのかもしれないけど、最新のきらびやかにライトアップされた高層ビルにはない美しさがある。そこには長い間人が暮らしてきた歴史があり、人々のリアルな喜びや哀しみが染み込んでいる。だからこそ美しさを感じ、さらに愛着がわいたり、感動したりするのだ。
岡本太郎が「今日の芸術」でこう書いている。
「『きれいさ』と『美しさ』は本質的には違ったもので、場合によってはあきらかに反対に意味づけられることさえある。『美しさ』は、たとえばきたないものにでも使える言葉です。みにくいものの美しさというものがある。美しいということは厳密に言って、きれい、きたないという分類には、はいらないもっと深い意味をふくんでいるのです」
まさに「リンダリンダ」と同じことを言っている。このドブネズミの美しさに目を向けることこそ、トラベラーズノートが大切にしていることでもあるのです。永く使われたトラベラーズノートの革は、傷やシミがついていたり、黒ずんでいたりして、一見するとただの汚いノートだと思う人がいるかもしれない。だけど僕らはそこに美しさを見いだす。使う人の歴史やパーソナリティが刻まれ、その喜びも哀しみも染み込んでいるのを感じるからこそ、美しいと思い、愛着を持つことができる。
60年以上昔に建てられた古い建物に魅せられ、そこにトラベラーズファクトリーを作ることを決めたのも、その中に使い古された足場材を使っているのも、あえて経年変化が起きやすい無垢の真鍮を使ってブラスプロダクトを作ったのも全部同じ理由だ。
ドブネズミのように目立たない場所にひっそり隠れ、もしかしたら人から忌み嫌われているかもしれないような存在の中にも美しさを見つけ出し、焦点を当てる。見た目の華やかさや経済的な効率性よりもリアルな人の想いを大切にする。哀しみや絶望の中で見落としてしまいそうな、ささやかな希望の兆しを見つける。
トラベラーズノートはそんな存在でありたいと願っているし、ネズミ年だからこそもう一度、その原点を大切にしていきたいと思う。そんなわけで、ネットで写真を探してドブネズミをトラベラーズノートに描いてみた。意外や意外、ドブネズミって結構かわいいんですね。
2020年もトラベラーズカンパニーをなにとぞよろしくお願いします。みなさまにとっても素敵な1年でありますように。