2020年1月 6日

Tiny Dancer

20200106b.jpg
 
振り返ってみると、昨年は映画館で見た映画はわずか2本しかなかった。
 
他にも誰かのおすすめだったり、何かで知って気になり見に行こうと思っていた映画はいくつかあったのに、結局行かないまま終わってしまった。別にヒマがないわけじゃないんだけど、最近はネットで予約しないといけないし、そういう些細なことを面倒がってなんとなく見に行くきっかけが掴めないままやり過ごしてしまうのだ。
 
ちなみに昨年映画館で見た2本の映画は、どっちもミュージシャンの伝記映画で、モリッシーのザ・スミス結成以前の日々を描いた「イングランド・イズ・マイン」に、エルトン・ジョンの半生を描いた「ロケットマン」。
 
エルトン・ジョンはいつも派手な格好して、なよなよした甘いメロディーの曲を歌っているミュージシャンというイメージがあって、正直に言うと昔はそれほど興味がなかった。彼の音楽をちゃんと聴いてみようと思ったのは、「あの頃ペニー・レインと」という映画がきっかけだった。
 
「あの頃ペニー・レインと」は、簡単に言うと音楽評論家を目指す15歳のアメリカの若者が、あるバンドのツアーにライターとして同行することになり、その旅を通じていろいろ経験しながら成長していくという話。70年代のロックの名曲がたっぷり流れるし、その頃の時代のアメリカの空気感を伝えてくれるなかなか素敵な青春映画で、最初に見たのはずいぶん前になるけれど、今でも大好きな作品だ。
 
その映画のワン・シーン。
 
バンドがツアーのためにバスで移動している。長いツアーに疲れ、メンバー同士で意見の食い違いがあったりして、車内はピリピリした険悪な空気に満ちている。そこにエルトン・ジョンの「タイニーダンサー」という曲が美しいピアノの旋律とともにバスに流れると自然とみんなが歌い出し、車内の空気が一変。バンドが一体感を取り戻していく。音楽の力を伝えてくれる感動的なシーンで僕はこの曲がきっかけで、エルトン・ジョンに興味を持つようになった。
 
その後調べてみると、この「タイニーダンサー」はエルトン・ジョンがはじめてアメリカに進出しツアーを成功させた時のことを歌った曲だということが分かった。タイニーダンサー(可愛いダンサー)は、その時にLAで出会った女の子のことで、歌詞はその女の子をカリフォルニアの象徴のように描きながら、暗くて閉鎖的なロンドンから自由で明るいアメリカにやってきて、そこで温かく受け入れられた喜びを表現している。そのことを知るとこの曲を合唱するシーンで、バンドのメンバーたちが何を頭に浮かべながら歌っていたのかが想像できて、映画のシーンもこの曲もさらに味わい深くなる。
 
「ロケットマン」に話を戻そう。
 
エルトン・ジョンは子供の頃からピアノの天才で、先生が弾いていた曲を一度聴いただけで譜面も見ないでピアノで再現できるような少年だった。そんな彼がミュージシャンとして成功することになったのが、バーニー・トーピンという詩人と出会ったことがきっかけだった。バーニーはその後エルトンのほとんどの歌詞を手掛けることになるのだけど、彼の文学的な詩がエルトンにインスピレーションを与えて、数々の美しいメロディーが生まれていった。
 
映画では彼らの最初のヒット曲になった「ユア・ソング」が生まれた時の有名なエピソードが描かれている。エルトンの実家に居候していたバーニーが、起きぬけに朝食を食べながらサラサラと詩を書くと「できたよ」と言って、エルトンに渡す。その詩に目を通すと、エルトンはピアノの前に座ってポロポロと鍵盤をたたき、溢れるようにメロディーが生まれ、わずか10分程度で曲が完成する。まさに2人の天才のハーモニーで名曲が生まれたことを教えてくれるシーンだ。
 
この曲の歌詞は典型的なラブソングで、「他に何もできないから歌を贈るよ。君のために作った歌なんだよ。君がいるだけでこの世界はなんて素晴らしいんだ...」という内容。それをバーニーがエルトンのために書く。ゲイだったエルトンは、そんな詩を読むことでクリエティビティを刺激されるのと同時にバーニーをどんどん好きになっていく。だけど悲しいかなバーニーは女が好きだからその恋は報われない。そんな心の葛藤や哀しみが人々を感動させる名曲を生み出していく原動力にもなっているのが映画を見ていくと分かる。
 
そんな微妙な関係ではあるのだけれど、2人はタッグを組み続け、いよいよアメリカへ乗り込みライブを開催する。当時アメリカはヒッピームーブメントの最盛期でその中心地でもあったLAの伝説的なライブハウスでのライブを成功させる。
 
映画ではライブの後のパーティーのシーンがある。バンドのメンバーやスタッフに、ファンも加わってみんなでライブの成功を喜んでいる。だけど成功の一番の立役者でありパーティーの主役でもあるエルトンは深い哀しみに満ちた表情をしている。バーニーがパーティーに来ていた現地の女の子と楽しそうに話をしていて、その後二人でどこかにしけこんでしまうのだ。映画では、その時にあの「タイニーダンサー」が流れる。
 
「Blue jean baby, L.A. lady
 Seamstress for the band
 And now she's in me, always with me
 Tiny dancer in my hand
 
 ブルージーンズの女の子、彼女はLA出身で
 バンドの衣装担当。
 そして彼女は今は僕のもの。いつも一緒。
 僕の腕に抱かれる可愛いダンサー」
 
「タイニーダンサー」は、バーニーの当時の恋人でその後に結婚する女性について書かれているとも言われている。エルトン・ジョンは、愛する人がその恋人を思って書いた詩にメロディーをつけて歌っているのだ。「タイニーダンサー」の裏にそんな悲しい物語が存在することを初めて知って、この曲がさらに味わい深く心に響くようになった。
 
なんだかトラベラーズノートみたいだ。2つの映画が「タイニーダンサー」にさまざまな意味や物語があることを教えてくれたように、トラベラーズノートもまたたくさんの喜びや哀しみが刻まれることで、その人にとって大切な存在になっていく。ノートに書き記すことで、その意味を紐解き大切な何かをを理解しようとしているのかもしれないな。

さて、2020年は面倒がらずもっと映画館に行こうと思って、まずはお正月休みに「男はつらいよ 50」を見に行った。ダメ人間ゆえに寅さんの一番の理解者だった満男が、脱サラして小説家になっていることにまずは感動した。満男は僕と同じ年に生まれいるし、ダメっぷりも含めて共感することが多かったキャラクターだ。僕もがんばらないとな。
 
Your Song (ロケットマンより)
Tiny Dancer (あの頃、ペニー・レインと)
 
20200106a.jpg