Factory Love
トラベラーズファクトリーのすぐ目の前にあるファイブスターカフェさんが先日閉店になった。近所だし、美味しいシンガポール料理がいただけたので、僕らもランチやイベントの打ち上げでよくお世話になっていた。いつもお客さんで賑わう人気のお店でもあったので、閉店の理由をお店の方に聞くと、耐震強度の問題で大家が建物を取り壊してしまうことになったとのこと。
トラベラーズファクトリーができる時、中目黒の路地裏にある今の建物の佇まいに惚れてこの場所にオープンすることを決めたのだけど、すぐ近くにファイブスターカフェがあったことも、この場所がいいなと思った理由のひとつでだった。
トラベラーズファクトリーと同じようにファイブスターカフェも小さな町工場だった古い建物をお店にしていて、かつてここがものづくりの場所であったことをさりげなく伝えてくれたし、その魅力を一緒に伝えていきたいという同志のような想いを勝手に感じていた。アアルトコーヒーの庄野さんやシュペリオールレイバーの河合さんのように、イベントのたびにファイブスターに通うのを楽しみしていた仲間もたくさんいたし、僕らだってあそこのラクサやチキンライスは大好物だった。閉店を迎え、灯りが消えたファイブスターを見るとやっぱり寂しくなる。
話は変わりるけど、先日トラベラーズカンパニーのオフィシャルサイトに、3月26日にリリースする予定の新しいプロダクトの情報をアップした。ブラスプロダクトにローラーボールペンが加わることとあわせて、筆記具のラインアップに限定カラーとしてファクトリーグリーンが登場する。
このファクトリーグリーンのアイデアをはじめてデザイナーの橋本から聞いたときは、まさにこれだと思った。この少しくすんだ青味がかったグリーンにファクトリーグリーンという名前をつけた理由はオフィシャルサイトにも書いているけれど、それ以上に僕らの工場に対する愛と敬意を形にしたいという想いがあった。ものづくりを生業とする僕らにとって、ものが生まれる工場は、最も重要な場所なのはあらためて言うまでもない。だけどそれ以上に、僕らは工場という場所が好きでたまらないのだ。
工場で、職人が巧みに道具を使ったり、鉄の塊のような機械を動かして、皮や紙、真鍮などの素材が形を表し、プロダクトに変わっていく様を見ているとワクワクする。小学校の図画工作の授業でハサミやノリを使って、手を動かし何かを作るのが好きだった子供の頃を思い出すと、工場は夢のような空間だ。工場に漂う油やインキの匂い、歯車が周り機械が動く音、ピリッとした空気の中でスタッフが手際よく動き、できあがった資材が美しく積まれていく姿。職人によって丁寧に手入れをされながら、長年に渡り実直に働き続けた古い機械が見せるなんとも言えない美しい佇まい。僕らはそんな工場が醸し出す空気が好きなのだ。
だからこそ、8年前に作った僕らの基地は、トラベラーズファクトリーという名前にしたし、今作っている京都の新しいお店だって、いかに「ファクトリー」を感じられる空間にするかを大切にしながら進めている。
「ファクトリーグリーン」は、そんな僕らの工場に対する想いから生まれた色だ。グリーンは、安心・安全を喚起する色として流山工場やブラスプロダクトを作る工場でも、床や棚、機械などにさまざまな場所で見つけることができる。長い歴史の中で、何度も磨かれ、油を挿され、働き続けてきたことで、そのグリーンは所々、色あせたり、錆びたり、くすんだりしているけどそれがたまらなく美しい。ファクトリーグリーンのブラスペンもまた長く使い続けることでそんな美しさを醸し出してくれたらと思っている。
トラベラーズファクトリーの入り口の窓枠も工場をイメージし、グリーンに塗ったけれど、8年間の歴史の中でだいぶ味わい深くなってきた。ファイブスターカフェがなくなってしまい、古い工場を感じさせてくれる素敵な建物がまた一つ取り壊されてしまうのは、とても残念だ。だけど、そんな時代の流れにあらがいながら、古い工場が受け継いできたものづくりスピリットとともに、その美しい佇まいを少しでも残し、伝えていくことができたらいいな。
3月発売のブラスプロダクトの筆記具たちも日本の歴史ある工場で職人たちの技によって現在絶賛生産中です。コロナウィルスの影響で日本も不穏な空気に包まれている中ではありますが、楽しみにしていただけたら嬉しいです。