2020年9月28日

トラベラーズタイムズ番外編:ハービー・山口さん

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トラベラーズタイムズ最新号の「How Do You Use TRAVELER'S notebook」では、写真家のハービー・山口さんにご登場いただいている。タイムズではノートの話を中心に書かせていただいたけれど、7月はじめに行ったインタビューは2時間近くにもおよび、他にも楽しい話をたくさんしてくれた。特にハービーさんのロンドン時代の話は、当時のミュージシャンが登場するエピソードがたくさんあって、個人的にもワクワクしながら聞かせてもらった。
 
例えば、かつてハービーさんがロンドンでルームシェアをしていたミュージシャン、カルチャークラブのボーイ・ジョージのこと。

「ルームシェアをしたのは彼の無名時代でした。彼はその頃から女装をしてバスに乗ってクラブに通っていたんです。そうするとクラブに行く途中で、その姿を気持ち悪いと言って、彼に唾を吐いたり、いやがらせをしたりするやつらがいるんですよ。それでたまに目に涙を浮かべかなら落ち込んで家に帰ってくることもありました。クラブに着いてから着替えたりすればいいのにと思うのだけど、彼はそうやって自分を偽るようなことは、絶対にしないんです。苦労があっても、自分の信念を貫き通している姿はすごいなあと思いました」

「ある時、家賃を払えと大家から起こされて、彼がうなだれている姿を写真に撮ったんです。でも、そんなところを撮るなよと言われたので、その写真をずっと封印していたんです。その後、カルチャークラブとして成功して、ライブのために来日し、再会した時にその写真を恐る恐る彼に見せたんです。怒って破り捨ててしまうのかと思っていたら、バンドのメンバーや関係者を呼んで、ハービーがこんな写真を撮ってくれていたんだよと、みんなに見せたんです。俺は一晩で有名になったと思っているだろうけど、この時は貧乏で、汚い部屋で汚い布団にくるまって寝ていたんだよ、なんて嬉しそうに語ってくれて。あの時は嬉しかったです」

「それから時が過ぎて、2016年に来日した時に30年ぶりに会ったんですよ。ライブに行くよ、とツイッターで伝えていたら、ライブ中にステージから『今日は友達のハービーが来てるぜ』と言ってくれてね。それでライブ後に楽屋で会ったんです。30年ぶりの再会で大きなハグをすると、『Are you happy in Japan?』と彼は聞いてきたんで、僕は逆に『きみはボーイジョージで幸せだったかい?』と聞いたんです。そうしたら彼ははっきりと『Yes! Of course I'm happy!』と答えたんです」

カルチャークラブ解散後のボーイ・ジョージの紆余曲折な経歴を知ると、このお話はとても感慨深い。もうひとつは主要なメンバーが全員女性のパンクバンド、スリッツのこと。

「スリッツは、パンクを語るのに外せない重要なバンドなんだけど、ある日、その撮影に呼ばれたんです。無事撮影を終えると、リーダーのアリ・アップがなぜか『何か楽器は弾ける?』と聞いてきた。で、ロンドンに来る前に少しかじったことがあったフルートだったら弾けると言ったんですね。そうしたら明日リハーサルがあるからフルートを持ってスタジオに来るように言われたんです。翌日、よく分からないままスタジオに行くと、きちんとマイクもセッティングされていて、ああこれはマジなんだなあ、とちょっと緊張したけど、なんとかバンドの演奏にあわせてフルートを吹いたんです」

「そしてリハーサルが終わると、アリ・アップは、今度クラッシュの前座としてツアーに出るからメンバーとして一緒に行こうと誘ってきたんです。プロになれるほどうまくない、と僕が言っても、パンクは上手い下手は関係ないと彼女は言う。それで僕もその気になって、まずはプロは必ず加入する必要があるミュージシャン・ユニオンのメンバーになりました。書類にはステージネームを書く欄があるのだけどハービー・カミカゼと書いたら、メンバーはこりゃいいと喜んだりしてね」

「時を同じくして、当時メンズビギをやっていた菊池武夫氏より流行通信に掲載する写真をとってほしいとの依頼を受けたんです。これは写真家を目指す僕にとって大きなチャンスでした。両方をやることはできないので、ずいぶん悩みました。人に相談すると、みんな写真の方がいいと言うので、結局写真を選んだんだけど、あの時スリッツのメンバーになっていたら人生はずいぶん変わっていただろうね。流行通信の仕事のために9年ぶりに日本に帰って、その後ロンドンに戻ったら、スリッツはすでに解散していましたけどね」
 
僕もハービーさんが写真を選んだのは間違っていないと思うのだけど、スリッツに在籍していた伝説の日本人ミュージシャンとしてのハービーさんのストーリーも興味深かかったな。ちなみにスリッツのリーダー、アリ・アップのお母さんは、ハービーさんも撮影しているセックス・ピストルズのジョン・ライドンの14歳年上の奥さん。ハービーさんによると、ジョン・ライドンは現在、認知症になっている奥さんを病院に入れず愛を持って介護しているとのこと。

「昔撮った彼の写真からは優しさが滲み出ているんですよね」とのハービーさんの言葉とともにそのエピソードを聞くとより感慨深い。他にも、レッド・ツェッペリンのロバート・プラントの撮影時のエピソードに、ヴィム・ベンダースの映画『夢の涯までも』のスチールカメラマンの時のエピソードなどなど、貴重な話をいっぱい聞かせてもらった。
 
それにしてもハービーさんとお話をした2時間はほんとうに楽しい時間だったな。大御所写真家なのに、尊大さのかけらもなく、むしろ謙虚さを感じるくらいに僕らに気さくに優しく温かく接してくれて、笑わせながらたくさんの気づきを与えてくれる。インタビューの最後に、「ぜひいろいろ落ち着いたらまたトラベラーズファクトリーで写真展とかトークショーをお願いします」と言うと、「ぜひ、やりましょう」と答えてくれた。

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